CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#03

2024年五月の火星観測報告

 (λ=246°Ls ~ λ=266°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #535 (10 June 2024)


・・・・・・ 今期三回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた五月末までの火星の画像より纏める。

火星は五月には「うお座」で順行を続けて、初旬には赤緯は北側に上がってきている。海王星を四月29(GMT)に追い抜いて、西方最大離角の水星を追いかけたが、外合に向けて太陽に近づいて行く水星に追いつくことはなかった。北半球では、火星の出は午前3時台になっていったが、日の出も早くなって、すぐに薄明が始まって観測時間は長くならなかった。

 


 

五月には、季節(λ)λ=246°Lsから266°Lsまで進み、南半球の夏至直前にまで達した。視直径(δ)の増加は右図の赤線のように鈍く、δ=4.7”から、月末にδ=5.0”まで大きくなっただけであった。傾き(φ)はまだ大きく、南半球が大きく此方を向いている。

縮小してゆく南極冠は偏芯していて、観測した火星面経度により、見え方が変化するような時期になっていた。

右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。緑色の点線で示した中央緯度が、まだ20°S以上だったことが判る。

 

この季節のやや視直径の大きな時の観測報告は、2020年の接近時にあり、以下のリンクから辿れる。

CMO#496 (1 July ~ 31 July 2020, λ=230°~250°Ls, δ=11.5~14.3”) 

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/496/2020repo_07.htm

CMO#497 (1 August ~ 30 August 2020, λ=250°~269°Ls, δ=14.5~18.9”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/497/2020repo_08.htm

 

さらに視直径が大きいときの同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、南極冠縮小の様子や、黄雲発生時の様子などが、沖縄へ観測遠征中の南氏の筆により語られている。

2003年火星課レポートのインデックスページは

 https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html

(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして新しいタブで開くなどで見ることが出来ます。)

2003年八月後半の火星面觀測

CMO #278  (16August ~ 31 August 2003,  λ=242°Ls ~ 252°Ls,  δ=24.5 ~ 25.0")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/278OAAj/index.htm

2003年九月前半の火星面觀測

CMO #279  (1 Septenber - 15 September 2003,  λ=252°Ls ~ 261°Ls,  δ=25.0 ~ 23.6")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/279OAAj/index.htm

2003年九月後半の火星面觀測

CMO #280  (16 Septenber ~ 30 Septenber 2003,  λ=262°Ls ~ 270°Ls,  δ=23.4 ~ 20.9")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/280OAAj/index.htm

 

 

♂・・・・・・ 2024年五月の火星面の様子

○ 火星面概況

 フォスター氏のルーチン観測が五月にも行われて、多くの画像が寄せられている。阿久津氏の画像も補って、火星面経度を追って並べてみた。視直径はδ=4”台とまだ小さく、詳細は捉えられていないが、主な暗色模様は描写されていて、この期間の火星には大きな擾乱はなかった様である。この期間に活動があるアルシア・モンスの午後の山岳雲の活動を捉えたB光画像の報告は見られなかった。

 


 

○ 縮小している南極冠の様子

偏芯して縮小をしていると、火星面経度により南極冠の見え方が変化する。今期は視直径の小さいこともあり顕著には捉えられなかったが、マレ・キムメリウム(M.Cimmerium )の見える経度では、南極冠が平たく明るさも弱くなっている。

下記のリンクから、三つの方向からの南極冠の融解の季節を追った模式図を見ることが出来る。

經緯度圖で南極冠の偏芯を見る  [Forthcoming 2005 Mars (11)]  CMO #307

“The SPC on Grids at λ=235°Ls, 250°Ls, 270°Ls”

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_11.htm

 

○ ノウォス・モンス

ノウォス・モンス(Novus Mons)の南極冠との分離はλ=250°Ls頃、消滅はλ=280°Ls頃とされていて、今期もその範囲内に入っていた。月初のフォスター氏の画像では、南極冠の左側に間に暗帯を挟んでノウォス・モンスが確認できる。同じωの下旬の画像が阿久津氏によって撮影されていて、比較すると南極冠の左側の明るさはやや薄くなっているように思える。南極冠の縮小も感じられる。λ=280°Lsに達するのは、六月下旬のこととなる。詳しい記述は、下記のリンクを参照されたい。

ノウォス・モンスの殘照 [CMO 2005 Mars Note (10)]  CMO #327

 " "Remnant" Novus Montis"   

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf

 

 

♂・・・・・・ 2024年五月の観測報告

五月の観測報告は、以下の四名からの25観測であった。熊森氏、メリッロ氏が初観測を報告してこられた。フォスター氏のルーチン観測に続いて、阿久津氏は下旬からはルーチン観測に入っている。

 

  阿久津 富夫 (Ak)  セブ、フィリピン

   AKUTSU, Tomio  (Ak)  Cebu island, The PHILIPPINES

      1 R + 1 B + 4 IR Images  (6, 20, 23, 25, 26, 28 May 2024)

                                      45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm"  with a Mars-M

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html

 

  クライド・フォスター (CFs)  ホマス、ナミビア

   FOSTER, Clyde (CFs) Khomas, NAMIBIA

    10 Sets of RGB + 18 IR Images  (1~ 6, 11, 15, 19~22, 25~27, 29~31 May 2024) 

                                                       36cm SCT with an ASI 290MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

   熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府

   KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN

     1 IR Image (17 May 2024)  36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Km.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      1 Colour & 1 >610nm* Images (31 May 2024) 

                                     25cm SCT with an ASI 120MC & a DMK 21AU618,AS*

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html

        

 

 

♂・・・・・・ 七月の火星面と観測の目安

 七月には火星は順行を続けて「おひつじ座」から「おうし座」に入る。天王星を七月15(UTC)に追い越して、20日ころにはプレアデスの南を通過して木星に近づいて行く。「おうし座」の明るい星々との競演で朝方の空が賑やかになる。木星との「合」は八月半ばにおきる。赤緯も20°Nを越えて、出も午前一時台となり、夜半過ぎの観測時間は北半球の夏至を過ぎたこともあり伸びて行く。

 


 

七月の火星面の様子を以下に図示する。七月に入ってからは雪線の表示はしていない。今回の図には視直径のスケールを入れてみた。大接近の時には視直径はδ=20”以上となるが、今回の接近の最大視直径は、δ=14.6”にすぎない。

視直径(δ)は、七月にも増加はゆっくりで、δ=5.45.9”5秒角を越えない。傾きはだいぶ北を向いてきて、北極雲が北縁に見えてくる様になる。南極域は見え難くなり、南極冠の最終状況の確認は難しいと思われる。

 


 

  季節(λ)は、λ= 285°Ls303°Lsと進み、北半球起源のクリュセ付近を発生源としてエオス付近に拡がり、渓谷沿いの地形に沿って明るくなる黄雲の活動期になってくる。今接近でも似たような黄雲の発生があるかも知れない。

2005 (λ= 308°Ls),  2020 (λ= 313°Ls),  2022 (λ= 309°Ls) の活動の様子は、以下のリンクから辿れる。

  2005年十月後半の火星面観測  CMO#312

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO312.pdf

  2020年十一月の火星観測報告 CMO#502

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/502/2020repo_13.htm

  2022年九月の火星観測報告  CMO#520

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/520/2022repo_08.htm 

 

また、アルシア・モンス (Ω=121°W, 09°S)の夕方の山岳雲の活動期間も続いていて、B光画像での撮影が確認に重要である。


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