CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#02

2024年四月の火星観測報告

 (λ=228°Ls ~ λ=246°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #534 (10 May 2024)


・・・・・・ 四月末までの『火星通信』に送られてきた撮影画像より、今期二回目のレポートを纏める。

火星は四月には順行を続けて「みずがめ座」から「うお座」に進んでいる。視直径の増加は鈍く、まだ4秒角台である。北半球では、火星の出は午前4時を少し早まっただけで、高度も上がらないうちに、すぐに薄明が始まってしまっていた。四月11(GMT)には「みずがめ座」で土星に接近して追い抜いていった。四月29(GMT)には「うお座」で海王星に2分角まで接近して通過していった。5月上旬には赤緯は北側に上がってきている。

 


 

四月には、季節(λ)λ=228°Lsから246°Lsまで進み、南半球の初夏の火星面が見えていた。視直径(δ)はまだ小さく、δ=4.5”からδ=4.7”まで大きくなっただけで、詳細を捉えることは難しかった。傾き(φ)は南向き最大となり(25.7°S)、南半球が大きく此方を向いている。240°Ls頃から偏芯して縮小してゆく南極冠が捉えられている。南極冠内部や周辺の様子も小さな視直径ながら垣間見ることが出来た。

 

右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示す。赤い実線が今接近の視直径の変化である。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。緑色の点線で示した中央緯度が、南向き最大の期間であったことが読み取れる。

 

この季節のやや視直径の大きな時の観測報告は、2020年の接近時にあり、以下のリンクから辿れる。

CMO#496 (1 July ~ 31 July 2020, λ=230°~250°Ls, δ=11.5~14.3”) 

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/496/2020repo_07.htm

CMO#497 (1 August ~ 30 August 2020, λ=250°~269°Ls, δ=14.5~18.9”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/497/2020repo_08.htm

 

さらに視直径が大きいときの同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、南極冠縮小の様子や、黄雲発生時の様子などが、沖縄へ観測遠征中の南氏の筆により語られている。

2003年火星課レポートのインデックスページは

 https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html

(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして新しいタブで開くなどで見ることが出来ます。)

2003年七月後半の火星面觀測

CMO #276 (16 July~ 31 July 2003,  λ=222°Ls ~ 232°Ls,  δ=19.2~ 22.4”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/276OAAj/index.htm

2003年八月前半の火星面觀測

CMO #277  (1 August ~15 August 2003,  λ=232°Ls ~ 242°Ls,  δ=22.4 ~ 24.4")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/277OAAj/index.htm

 

また、重複するが以下の南極冠に関する記事も参考にしてほしい。

南極冠は何時偏芯するか [2001年の火星 (7) ]  CMO #240 (25 February 2001 ) 南 政次

  http://www.mars.dti.ne.jp/~cmo/coming2001/0107/07j.html

南極冠の内部の觀察 Great 2003 Mars Coming (7) CMO#268 (25 January 2003 )  南 政次

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomk/coming2003/07j.html

パルワ・デプレッシオの出現 [Forthcoming 2005 Mars (7) ] CMO #304 (25 April 2005)  南 政次

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_7j.htm

 

 

 

♂・・・・・・ 2024年四月の火星面の様子

○ 火星面概況

 四月にもフォスター氏のルーチン観測が行われて、多くの画像が寄せられている。日付を追って並べてみた。詳細は捉えられていないが、主な暗色模様には変化がなく、この期間の火星は平穏だった様である。

 


 

縮小している南極冠の様子は、うまく捉えられていないが、偏芯して縮小をしていると、火星面経度により南極冠の見え方が変化することもあり、内部の陰翳によっても影響を受ける。融け残る極冠の方向は、火星面経度Ω=040°方向である。この期間の雪線緯度は、70°S(λ=228°Ls)79°S(λ=246°Ls)程度と思われる。

 

以下には、この期間に南極冠辺縁部に見える輝点について、今期のフォスター氏の画像と同じ季節(λ)と火星面中央経度(ω)の画像を以前の2003年と2020年の画像から選んで並べてみた。フォスター氏の画像はまだ小さく、ハッキリは描写されていないが、それぞれの様子が感じられる。

 


 

火星面経度(Ω)で、Ω=150°W付近には、チュレス・モンス(Thyles Mons)という輝点が観測される。フォスター氏の小さな画像にも感じられる。この期間には南極冠の融解の進んだ部分が明るさを落とすようになり、内部の暗帯も見え始める。中央の画像に見える暗帯はリマ・オーストラリス(Rima Australis)である。その右側が明るさを落としている。

 


 

つづいては、ソリス・ラクス(Solis L)の南側のΩ=090°W付近に見える輝点を取り上げる、フォスター氏の画像にもはっきり感じられる。大きな画像では、そこから右側の極冠の明るさが変化しているのが判る。この輝点には同定できる名称は与えられていないが、以前から観測されているものである。

 


 

次は、アルギュレ(Argyre)の南方のΩ=040°~050°W付近に見える輝点で、視直径の大きな期間では二つ並んだ姿で捉えられている。モンス・アルゲンテウス(Mons Argenteus)と呼ばれるあたりで、南にある極冠内の暗帯が、リマ・アングスタ(rima Angusta)で、この方向が一番遅くまで南極冠が融け残る火星面経度にあたる。

 

 


 

最後には、ノウォス・モンス(Novus Mons)をとりあげる。いわゆるミッチェル山で、フォスター氏の画像でも南極冠から分離しているような姿が捉えられている。間の暗帯は、裏側から繋がるリマ・オーストラリス(Rima Australis)である。この部分の消滅はλ=280°Ls頃とされていて、今接近では五月下旬に訪れる。

以前の画像には、此方にもモンス・アルゲンテウス(Mons Argenteus)の二つの輝点が捉えられている。

 

 

♂・・・・・・ 2024年四月の観測報告

寄せられた四月の観測報告は、以下の二名からの26観測であった。オーストラリアからの報告はなかった。阿久津氏は中旬から月末まで、一時帰国して日本に滞在していて観測報告は少なくなっている。

        

  阿久津 富夫 (Ak)  セブ、フィリピン

   AKUTSU, Tomio  (Ak)  Cebu island, The PHILIPPINES

      1 Set of RGB + 2 IR Images  (6, 8 April 2024)

                                      45cm Newtonian (F/4) "stopped 30cm"  with a Mars-M

     https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html

 

  クライド・フォスター (CFs)  ホマス、ナミビア

   FOSTER, Clyde (CFs) Khomas, NAMIBIA

    18 Sets of RGB + 21 IR Images  (1, 2, 6, 9~11, 14~16, 18~26, 28~30 April 2024) 

                                                       36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

 

♂・・・・・・ 六月の火星面と観測の目安

 六月には火星は「うお座」から「おひつじ座」に入り赤緯をあげてくる。火星の出も午前2時台となり、観測時間も伸びてくる。しかし、視直径(δ)は、六月にも増加はゆっくりで、δ=5.05.4”の増加に過ぎない。

六月の火星面の様子を以下に図示する。下段のシミュレーション画像では、午前4時(JST)の火星面を示して、標記の日時にわが国から見える火星面の様子を示してみた。

 


 

  季節(λ)は、λ= 266°Ls285°Lsと進み、南半球の夏至(λ= 270°Ls)になるのは六月7日のことである。太陽直下点緯度は25°S付近と南側最大になっている。南極冠の縮小も最終段階で雪線緯度は85°S程度まですすんで、偏芯して融けている。上の図では偏芯の様子を示していないが、火星面経度のΩ=040°Wが融け残る方向である。

また、南半球での黄雲発生の季節は続いていて、小さな視直径ながら発達状況は捉えられることと思われ、監視が大切である。アルシア・モンス (Ω=121°W, 09°S)には、この季節に夕方の山岳雲の発生が知られていて、B光画像での撮影が、確認に重要である。上の図から日本では六月中旬にチャンスのあることが判る。


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