CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#01

2024年二月始めから三月末までの火星観測報告

 (λ=191°Ls ~ λ=227°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #533 (10 April 2024)


・・・・・・ 今期一回目のレポートは、三月末までの『火星通信』に送られてきた撮影画像より作成する。

昨年十一月に「てんびん座」で太陽と「合」になった火星は、年初には「いて座」に入って、朝方の空で順行を続けて太陽との離角を拡げていった。視直径(δ)は、一月中旬に4秒角に達したばかりであったが、南半球のフォスター氏から早くも一月10日の初観測の報告があった。北半球では、赤緯も低く冬場のこともあり、観測の開始はまだ難しい時期であった。二月になって、フォスター氏がルーチン観測を始められたこともあり、三月始めには今接近期のギャラリーの開設となった。

火星は二月には「やぎ座」に入り、三月下旬には「みずがめ座」まで進んで赤緯を上げてきている。視直径は4秒角台で、5秒角に達するのは、五月末のこととなる。

 


 

朝方の空には、今期は明るい惑星が並んでいて、水星との接近は一月27(GMT)に「いて座」で、金星との接近は二月22(GMT)に「やぎ座」で内惑星達に追い抜かれていった。四月11(GMT)には「みずがめ座」で土星に接近して追い抜いてゆく。友人が早朝に撮影した画像をご覧いただく。

 


 

二月始めから三月末までには、季節(λ)λ=191°Lsから221°Lsまで進み、南半球の春分過ぎから初夏の頃までの火星面が見えていた。視直径(δ)はまだ小さく、δ=4.0”からδ=4.5”まで大きくなっただけで、詳細を捉えることは難しかった。南半球が大きく此方を向いていて、縮小してゆく南極冠がまだ大きく捉えられている。

 

今期も右図のような、視直径の比較と、中央緯度の変化の様子をグラフで示す。赤い実線が今接近の視直径の変化である。今接近のピークになるのはλ=030°Ls頃で中央緯度が少しだけ北向きのことが読み取れる。黄色くマークされているところが、このレポート期間の様子を示している。

 

この季節のやや視直径の大きな時の観測報告は、2020年の接近時にあり、以下のリンクから辿れる。

CMO#494 (1 May ~ 31 May 2020, λ=193°~211°Ls, δ=7.6~9.3”) 

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/494/2020repo_05.htm

CMO#495 (1 June ~ 30 June 2020, λ=211°~230°Ls, δ=9.3~11.5”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/495/2020repo_06.htm

 

さらに視直径が大きいときの同じ季節の観測報告は下記のリンクにあり、南極冠縮小の様子や、黄雲発生時の様子などが、南氏の筆により語られている。

(ページ中のリンクが右ウインドに開かないときには、右クリックをして新しいタブで開くなどで見ることが出来ます。)

2003年五月後半〜六月前半の火星面觀測

CMO #273 (16 May ~ 15 June 2003,  λ=186°Ls ~ 204°Ls,  δ=10.7~ 14.2”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/273OAAj/index.htm

2003年六月後半の火星面觀測

CMO #274 (16 June ~ 30 June 2003, λ=204°Ls ~ 213°Ls,  δ=14.4 ~ 16.5")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/274OAAj/index.htm

2003年七月前半の火星面觀測

CMO #275  (1 July ~ 15 July 2003, λ=213°Ls ~  222°Ls,  δ=16.7 ~ 19.2")

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/275OAAj/index.htm

 

また、重複するが以下の南極冠に関する記事も参考にしてほしい。

南極冠は何時偏芯するか [2001年の火星 (7) ]  CMO #240 (25 February 2001 ) 南 政次

  http://www.mars.dti.ne.jp/~cmo/coming2001/0107/07j.html

南極冠の内部の觀察 Great 2003 Mars Coming (7) CMO#268 (25 January 2003 )  南 政次

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomk/coming2003/07j.html

パルワ・デプレッシオの出現 [Forthcoming 2005 Mars (7) ] CMO #304 (25 April 2005)  南 政次

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_7j.htm

 

 

 

♂・・・・・・ 2024年三月末までの火星面の様子

○ 火星面概況

 視直径がまだ小さく詳細は捉えられないが、フォスター氏のルーチン観測で、ほぼ全面の様子が捉えられている。主な暗色模様は捉えられていて、大きな擾乱は発生していないようである。傾き(φ)が南向きに大きな事もあり、南極冠の様子がすべての画像にあり、雪線緯度は、61°S(λ=190°Ls)68°S(λ=220°Ls)程度と思われる。下段の二回り目になると、南極冠内部に濃淡が判るようになってきた。今後は、南極冠は偏芯して縮小して行く時期となり、火星面経度により南極冠の見え方が変化するようになる。

 

 


 

上図で別添の南氏の南極冠のスケッチは、この季節と少し後の季節の様子を同じような中央経度(ω)で比較したもので、内部の暗帯は、リマ・オーストラリス(Rima Australis)や、マグナ・デブレッシオ(Magna Depressio)が含まれているものである。今期の下段の画像の南極冠でも左側が暗く、右側には南極冠内部の明班が確認できる。ルーカス氏の画像に顕著で、ノウゥス・モンス(Novus Mons)が含まれている場所にあたる。

右図は、佐伯恒夫氏著の「火星とその観測」恒星社厚生閣からの引用の南極地方図で60°S以南のアントニアジ図の模写である。南極の左側にある暗帯がリマ・オーストラリス(Rima Australis)である。

 

 

♂・・・・・・ 2024年三月末までの観測報告

三月末までに寄せられた観測報告は、以下の三名からの31観測であった。オーストラリアからのニューカマーがあり、今後に期待される。

        

  阿久津 富夫 (Ak)  セブ、フィリピン

   AKUTSU, Tomio (Ak)  Cebu island, The PHILIPPINES

      2 Colour + 8 IR Images  (16*,19*,24* February; 10, 12, 15, 28, 29 March 2024)

           45cm Newtonian (F/4) {stopped 30cm/35cm}  with a Mars-M & an ASI 224MC*

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html

 

  クライド・フォスター (CFs)  ホマス、ナミビア

   FOSTER, Clyde (CFs) Khomas, NAMIBIA

    19 Sets of RGB + 20 IR Images  (10 January; 5, 8, 15, 17 19, 22, 26~28 February)

         & (1, 3, 10, 11, 14, 16, 27~29, 31 March 2024)  36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

   セバスティアン・ルーカス (SLk) キャンベラ、オーストラリア

   LUKAS, Sebastian (SLk)  Canberra, AUSTRALIA

      2 Colour Images  (21, 26 March 2024) 31cm SCT with a QHY5V715C

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_SLk.html

 

 

♂・・・・・・ 五月の火星面と観測の目安

 五月には火星は「うお座」に入り赤緯も北側になる。火星の出も午前3時台となり、観測時間も伸びてくる。しかし、視直径(δ)の増加はゆっくりで、5秒角を越えるのは、五月末のこととなる。

五月の火星面の様子を以下に図示する。

 


 

  季節(λ)は、λ= 246°Ls265°Lsと移り、南半球の夏至の間近まで進む。南極冠の縮小も最終段階で、偏芯して融けてゆく。ノウォス・モンス”Novus Mons” (ミッチェル山)の分離は、λ= 260°Ls付近で起きると予想される。

 また、南半球での黄雲発生の季節は続いていて、小さな視直径ながら発達状況は捉えられることと思われ、監視が大切である。

 この期間の五月中旬に、ピカリ現象の目安である、De=Ds (24.2°S)となる時があるが、この時期の小さな視直径(δ)では、確認は難しいことと思われる。以下のリンクが参考になる。

 

「火星面がピカるとき」Forthcoming 2001 (10)  CMO#242 (25 April 2001)

  "The sub-Earth point (De) = sub-Solar point (Ds)"

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/coming2001/0110/10j.html

 


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