CMO/ISMO 2022/23 観測レポート#12
2023年一月の火星観測報告
(λ=003°Ls ~λ=018°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#524 (
♂・・・・・・ 今期十二回目のレポートは、『火星通信』に送られてきた一月中の画像より、火星面のこの期間の様子を概観する。一月には関東では晴天傾向が続いたが、寒気の南下でシーイングは勝れなかった。日本海側や沖縄では曇天傾向が続いた。
火星は一月にも「おうし座」のヒアデスの北で逆行を続けていたが、13日に「留」となり順行に移った。順行になっても赤緯は24°Nを保ってループを描く軌跡にはならなかった。南中高度は高い状況が続いて、日本では日没後の天頂高くに見えていたが、明るさの低下も視直径の低下と共に早く、だんだんと目立たなくなっていった。
季節(λ) はλ=003°Lsから、末日にはλ=018°Lsまで進んだ。視直径(δ)は、δ=14.7”から10.7”にまで急速に減少した。位相角(ι)は月初めの19°台から、月末にはι=32°台まで増えて、南半球の朝方の欠けが目立っている。傾き(φ)はφ=09°S台で、中旬に南向き最大になって北向きに戻っている。月末では08°S台になっている。
(黄色くマークしたところが、2023年1月の範囲)
同じような季節の前回2020年接近時の様子は、視直径は8秒角以下(緑の線)になってしまったので、今回からは1サイクル前の同様の接近だった2007-2008年の接近時の様子(青い線)を参考にする。
この時の最接近は、十二月18日で最大視直径はδ=15.88”であった。「衝」は十二月24日に「ふたご座」で迎えている。
CMO#341
(16 Dec~31 Dec 2007, λ=003°~011°Ls, δ=15.9~15.4”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO341.pdf
CMO#342
(1 Jan~15 Jan 2008, λ=011°~018°Ls, δ=15.4~13.9”)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO342.pdf
♂・・・・・・ 一月の火星面の様子
一月は、日没後の火星は既に高く昇っていて、観測は夜半前の時間に移ってきた。南半球では南中高度は低く、昇ってくるのを待たなければならなかった。この期間にも大きな擾乱は見られず、火星の季節は北半球の春へと進んでいた。北極雲はなかなか晴れ上がらずに、中央緯度が南向きのこともあり北極冠は北端に薄く見られるだけであったが、明るさが感じられる画像も出ている。南極方面では南緯50°S付近の雲帯から南極域への拡がりがあり、南極雲の生成の始まりと考えられる。タルシス山系の午後の山岳雲活動も青色光画像(Blue image)では弱く見られるようになっている。
○ 火星面概況
今回もマレ・アキダリウム(M Acidalium)付近の北極雲・北極冠の様子からご覧いただく。このエリアでは北極雲の活動はまだ活発で、日替わりの様子を見せていた。上旬には日本の天候は太平洋側では安定していて、上段のように連続した画像が得られている。タナイス(Tanais)の暗帯の北側は北極冠が見えていると思われる。タナイスの南側には明帯が見えているときがあり、北極雲がテムペ(Tempe)からアルバ(Alba)に懸かる様子のように見える。
下段には下旬になって、欧米側から捉えられた画像を取り上げた。様子はあまり変わらず北極雲の活動はまだ続いているようである。後で取り上げるアルギュレ(Argyre)の明るさがどの画像にも感じられる。画像のサイズを合わせるために大きさを調整してあることをお断りしておく。
次には、マレ・アキダリウムの東側の様子を取り上げる。RGBのセットになっている画像からは青色光画像(B)も並べてある。ギュンデス(Gyndes)付近の暗帯が後半にはハッキリしてきて、その北には北極冠が捉えられているが、中央緯度(φ)が南向きのこともあり北縁に薄平たく見えているだけである。
15日のフラナガン氏の画像には、視直径が小さくなり、位相角が大きくなっているが、エリシウム・モンス(Elysium Mons)辺りの明るさが今回も判る。ギャラリーの大きな画像を参照されたい。
青色光画像には南極域と南緯50°付近の明るさが捉えられている。パエトンチス(Phaethontis)からエリダニア(Eridania)にかけての並んでいる大陸の上に日替わりで見えている。暗いマレ・クロニウム(M Chronium)が透けて見えていることもある。北極冠の南側には弱い雲が漂うことがあるようで、プロポンティスT(Propontis I)や、アルバ(Alba)付近に認められる。夕縁には夕靄の他にもタルシス三山やオリュムプス・モンスに懸かる山岳雲も弱く捉えられるようになってきた、本格的な活動はこれからである。
次には、シュルティス・マイヨル(Syrtis Mj)の見える画像を並べてみた。北縁にはウトビア(Utopia)の暗部の北に北極冠が明るく、北極雲は朝方に弱く見られるだけとなっている。青色光画像には、こちらでも南緯50°付近の明るさが判り、ヘッラス(Hellas)が朝方にあるときには内部に朝靄が溜まって明るく見えている。午後に廻っても淡く残り朝方に伸びてアルギュレの明るさに繋がっているようである。
○ 参考文献
南緯50°S付近の雲帯や午後の山岳雲活動の始まりなどは、季節的な活動のようで、上記の2007/08年の観測レポートや、以下にリンクを付けた観測ノートに同様の活動のあったことが記述されている。
「2007年北半球春分に於けるアルバ・モンス周邊の氷雲」07/08 CMO Note (7) CMO#353 (25 December 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO353.pdf (Ser2-p1015和文)
「9 Jan 2008 (λ =015°Ls) からの白昼のアルギュレ白雲」07/08 CMO Note (5) CMO#351 (25 October 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO351.pdf (Ser2-p0989 English・和文)
「2007年の北極冠はいつ頃から見え始めたか」07/08 CMO Note (3) CMO#349 (25 August 2008)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/CMO349.pdf (Ser2-p0966和文)
07/08
CMO NoteのインデックスページのURLは下記のようになっている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm
♂・・・・・・ 一月の観測報告
『火星通信』に寄せられた一月の観測報告は、最接近を一ヶ月すぎていて、報告者も報告数も減少している。日本からの観測は二名から26観測。アメリカ大陸側からは、四名から21観測、ヨーロッパ側からは、三名から8観測の報告があった。南半球からはナミビアのフォスター氏からは7観測の報告があった。合計して、これまでに10人から62観測の報告があった。
それぞれの画像は以下のリストのリンクから辿れる。
グザヴィエ・デュポン (XDp) サン・ロック、フランス
DUPONT, Xavier (XDp) Saint-Roch, FRANCE
2 Colour Images
(2,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_XDp.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl)
2 Sets of LRGB
+ 4 Colour* + 3 B* Images (4*, 6*, 7*, 11, 14*,
36m SCT @f/22 with a Saturn-M SQR & Uranus-C*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
7 Sets of RGB +
6 IR Images (4~ 8, 12,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_CFs.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
13 Colour + 10 B Images (3, 7~9,
11, 12, 18,
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km)
12 LRGB Colour
+ 6 B + 6 IR Images ( 6, 10~12, 19, 21, 29*, 30*. 31* January
2023)
36cm SCT @ f/38 with an ASI 290MM & ASI 462MM*, ASI
662MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_Km.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw)
4 Colour
Images (2, 15, 17,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
8 Colour
Images (2, 8, 10, 17, 28,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
6 RGB images
(2/3, 14, 16, 26,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_EMr.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr)
Lindby,
2 Colour
+ 2 IR Images (9,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_JWr.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
1 RGB Set + 1 IR Images (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2022/index_TWl.html
,
♂・・・・・・ 三月の観測ポイント
三月には、火星は順行して「おうし座」から「ふたご座」へと移動する。月末には散開星団M35の北を通過してゆく。黄道の赤緯も高いが、この期間にもまだ火星の赤緯は高く、三月中旬には最大の25.6°Nに達する。視直径(δ)はこの期間にδ=8.2”~6.5”と小さくなり、観測期の終わりも近くなっている。
まだ日没後の空高く見えているが、「東矩」となるのは三月15日の事である。
下図には、三月中の位相や視直径の変化を図示する。自転軸の北極方向角は依然大きい。視直径の低下は早く、眼視観測は難しくなってしまう。位相角(ι)は37°台を推移して月末には少し戻る。傾き(φ)は4°S台から2°N台と北を向いてくる。季節(λ)は、λ=031°Lsから044°Lsへと進む。
同じような季節の接近だった2007/2008年の、この期間の様子は以下のリンクから参照できる。視直径は今回よりも少し大きい。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO343.pdf CMO #343 (25 Feb. 2008), λ=018°Ls
~λ=033°Ls
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO344.pdf CMO #344 (25 Mar. 2008), λ=033°Ls
~λ=046°Ls