CMO/ISMO 2016 観測レポート#22

2017年四月のISMO火星観測 (λ=342°~358°Ls)

南 政 次・村上 昌己

CMO #462 (25 May 2017)


・・・・・・ 火星は四月には、夕方の「おひつじ座」から「おうし座」へと進み、中旬には視赤緯 D 20°Nを越えたが、視直径δは下旬には四秒角を下回った。太陽との離角も30度以下となり観測報告も中旬までで途絶えた。季節はλ=342°Lsから月末にはλ=358°Lsと南半球の秋分直前に達している。位相角はι=22°から17°へと丸くなっている。傾きはφ=17°Sから09°Sとなって、今接近期の観測が終わった。

 

・・・・・・ MRO MARCIの画像では、四月には黄塵の大規模な擾乱は見られず、火星面も暗色模様がはっきりしてクリアになっているように思えた。北極雲の活動も最盛期だが画像では明るく捉えられていない。

  先月にも見られた、マレ・アキダリウム北部からテムペあたりにかけての雲帯は、日替わりだが下旬にかけてはかなり明るく見えてるようになってきた(右図)。また、ウトピアの北などの北半球高緯度にも雲帯が見えることが多くなっている。また、下旬になるとアルバ・パテラの午後側に小さく雲の活動が見られることがあるようになっている。タルシス付近の高山は暗点に見えることが多かったが、アルシア・モンスには薄い雲がかかることもあった。

 ヘッラスは期間を通して北西部に明るさがあった。地肌の色をしている。アルギュレ付近も明るく見える日があった。クリュセ-クサンテはダストが漂っているようで不鮮明で、前半はマルガリティフエル・シヌスもぼやけて見える日も多かった。 

 

・・・・・・ ここに引用したMRO-MARCI19April2017の画像は今期の観測の終焉の時期を示す例で、北極雲が顕著に写っているので選んだものである。季節はλ=352°Lsであって、南半球の秋分λ=360°Lsに近くなっており、一区切りを示すものである。2016年接近に似た火星接近は2001年、1986年、・・・等とあったが、2001年の場合λ=352°Ls360°Lsを指したのは2002年四月ころで、観測としては熊森照明氏の2 April 2002(λ=352°Ls δ=4.3")の像がある(引用)。歴史的な2001年の大黄雲の消失後としては模様が好く出ている。北極域を覆う北極雲が濃く出ている。北極雲を狙う場合は青色光が効いていなければならないし、視直徑は観測シーズンの終わりで極小さいから簡単なことではない。熊森氏の画像はその点でも稀有な記念碑的観測である。60cmCass使用。

 眼視では筆者達の一人(Mn)が足羽山で矢張り2 April 2002ω=007°W016°W026°Wの三回観測をおこない、北極冠はどれにも見えているが、然程大きく感じない。φ=14°Sであった。λ=360°Ls18 April 2002に訪れた。北極方面は白くvisibleとしている [この接近ではMn13 May 2002λ=012°Ls, δ=3.9")まで観測を続行した。スケッチ総数はこの2001年接近期、1088枚であった]

 1986年期の場合Mnの観測の大半は臺北の圓山天文臺でのものであるが、観測を終えて大津に帰ったのは26 December 1986で、その日夕方の観測は大津の20cm反射によって三枚程スケッチしているが、λ=307°Lsδ=7.2"であった。λ=352°Lsになったのは、17 March 1987δ=4.8" φ=16°Sであった。λ=360°Ls2 April 1987で、中島孝氏も四月末まで追っていたが、三月は天候不順であったし、北極雲域の詳細は餘り記録されなかったようだ(CMO#030~#032參照)

 

・・・・・・ 一方、λ=352°Ls360°Ls期を可成りの視直径で観測されたケースを振り返るのも興味がある。そういう画像を狙うとすれば、大接近前後ではなく、小接近期に近いであろうと想像される。例えば、1986年接近のあとであるならば、Mnの観測では21Dec1990δ=15.3"の大きさでλ=353°Lsの観測がある。φ13°Sであった。1990年の衝は27Novに起こっている。大津からはω=139°Wで、北極雲は可成り大きくて朝方がより白く明るい。多分プロポンティス1邊りがフリンジのように見えている。λ=360°Ls 4 January 1991に訪れた。δ13.3"と大きくなっている。依然φ=13°Sで、北極雲域はマレ・アキダリウムを殆ど覆っているが、北極冠域は好く見えないtiltである。

 

 

 2001年期後で、2016年期の接近より以前にこの季節を狙えたのは2007年接近で可成り最適であったと言える。実際、2007年十一月23(λ=352°Ls,  φ=07°N, δ=14.4"~14.5") には例えばここに引用するPaulo CASQUINHAの優れた像がある。北極雲の拡がりが綺麗である。その他にも同日Jesús R SÁNCHEZ, Yukio MORITA, Teruaki KUMAMORI, Akinori NISHITA, Stanislas MAKSYMOWICZ, Ralf GERSTHEIMER 各氏の優れた観測がある。

 

 

また、λ=360°Ls (9 Decemberφ=07°N, δ=15.6"~15.7") 時の観測でもJosé Antonio SOLDEVILLA GONZALEZ, David ANDERSON, Ian SHARP, Damian PEACH, Sean WALKER, David TYLER, Peter GORCZYNSKI, Carlos E HERNANDEZ, Yukio MORITA, Tadashi ASADA, Teruaki KUMAMORI, Sadegh GHOMIZADEH 各氏の観測があり、この時期の北極雲域の様子が窺える。ここではD PEACH氏の秀逸な像を引用する。

 

 

  更に いま抽出した十一月24日から十二月8日までの間にも多くの観測がなされ、上記観測者の他にもChristophe PELLIER, David ARDITTI, Frank J MELILLO, William D FLANAGAN, Richard BOSMAN, Xavier DUPONT, Mike SALWAY, Robert SCHULZ, Ignacio ZURUTUZA, Michael KARRER, Silvia KOWOLLIK, Vittorio AMADORI, Jan ADELAAR, Tomio AKUTSU, Donald C PARKER, Yasunobu HIGA, Bruce A  KINGSLEY, Donald R BATES, Francisco José FERNÁNDEZ GÓMEZ, Ian HANCOCK, Pepe GÓMEZ, Johan WARELL の各氏の活躍が記録されている。これらの像は

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2007/f_image.html

に納められているので、適宜参照されたい。

 


なお、上のλ=352°Ls360°Ls期に撮られたものの中から、Don PARKER氏の連続像とBill FLANAGAN氏の連続像をここに引用しておく。北極雲域周辺部の雲の状態について注目していただきたい。DPk氏の画像では北極冠部が垣間見られると思う。WFl氏の場合、安定した北極冠の周辺部が暗示されているほか、中央付近に少し蔭が見られるのに注意する。


いずれにしてもλ=352°Ls360°Lsに撮られたこれらの像はこの時期の火星面を(特に北極雲) 示す良い例である。上のサイトを参照することに拠って、具体的な北極域の様子が更に理解できると思う。

 

 

・・・・・・ 最後に2017年四月のCMO/ISMOの観測報告を纏めておく。タイムリーな観測者は二名で、観測数も2である。 他に森田氏から追加報告があった:

 

    マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

      1 Colour Image (7 April 2017)  45cm Spec with an ASI224MC

    フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

      1 IR Image ( 14 April 2017)  25cm SCT with a DMK21AU618.AS

   

 

・・・・・・以下、四月の二観測を紹介する。                                   

 

7 April 2017 (λ=345°Ls~346°Ls,   δ=4.1", φ=14°S)

       Martin LEWIS (MLw)氏が44cmドブソニアンにASI 224MCを搭載して、ω=252°Wの火星面を撮った。夕方にマレ・キムメリウムが斜め走り、シュルティス・ミノルの邊りも濃い。朝方にはシュルティス・マイヨルが弱く見えている。アウソニアの邊りは薄暗い。南極冠は確認出來ず、邊りは杳い。北端には白雲が縁に沿って擴がっている、δ=4.1"ながらMLw氏一流の綺麗な火星像である。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170407/MLw07Apr17.jpg

 

14 April 2017 (λ=349°Ls~350°Ls,   δ=4.1",φ=13°S)

   最後の像はFrank MELILLO (FMl) 氏がω=245°Wで与えた。25cm Meade SCT使用でDMK使用でIR610による赤外画像である。中央にマレ・キムメリウムとマレ・テュッレヌムが分離しない形で少し濃い塊になっている。その西方ターミネータ近くにはシュルティス・マイヨルが或濃度を示している。北邊は明るいか。2016接近において、FMl氏は90個近い像を醸した。           

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170414/FMl14Apr17.jpg

 

  以上で、定期的に送られてきた観測のレヴューを終了する。残念ながら、上で見てきたλ=352°Ls360°Ls期に到達する観測報告はなかった。気候にも依存するし高度が低く、視直徑も小さいので一朝一夕に2001年の場合の様には行かないのも仕方がない。然し、最後になったλ=346°LsMartin LEWIS氏の像は観測値が可成り北であるにも拘わらず、未だ素晴らしく、次の機会にも皆さん頑張りを見せて欲しいと思う。

 

次の號からは想定された期日より遅く投稿された追加報告分を何回かに分けて連載する。

 

・・・・・・  

    森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県

       9 Sets of LRGB Images (30 June; 3,~5, 17, 22, 27, 29, 31 July 2016)  36cm SCT with a Flea 3

 

・・・・・・ 追加報告のレビューは、観測シーズン終了後のReportでまとめることになる。

 画像は以下のリンクから見ることが出来る。

Mo: http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/index_Mo.html


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