CMO/ISMO 2016 観測レポート#20
2017年二月のISMO火星観測 (λ=309°~325°Ls)
南 政 次・村上 昌己
CMO
#460 (
♂・・・・・・二月になり視直径も小さくなり観測報告も減少したが、この期間の報告を二十回目のレポートとして纏める。火星は「うお座」を進んで赤緯を上げ、月末には天王星を追い越した。北半球では、近くの明るい金星には敵わないが夕空にまだ一等級で赤く沈み残っていた。
この期間、視赤緯Dは0°N台から9°Nになった。視直径は5秒角を下回り、δ=5.1"から4.6"と小さくなった。季節はλ=309°Lsから325°Lsと遷った。傾きはφ=26°Sから23°Sに少し戻ったがまだ大きく南に傾いて残留南極冠が小さくまだ描写されている。位相角はι=32°から27°になり朝方の欠けは小さくなった。
地上からの観測では詳細は捉えられなくなっているが、MRO MARCIの画像では、黄塵の活動が引き続いているのがわかる。6日(λ=313°Ls)にはエオスとオピル付近に見られ、20日(λ=320°Ls)にニロケラス付近に発生したものは、翌21日にはクサンテからアウロラエ・シヌス付近に共鳴して黄塵の範囲が大きくなった。地上からの観測でも22日(322°Ls)にエフライン・モラレス氏撮影の画像に朝方での活動が捉えられている。以後もソリス・ラクス周辺、ダエダリアなど南半球に影響が伝播していった。この活動は月末までも続いたようで、吹き上げられた黄塵は南半球高緯度のアルギュレ上空にまで拡がっている様に見える。中旬まで認められたアルシア・モンスの山岳雲は黄塵活動の発展と共に下旬には発生を確認することが出来なくなっている。
(Images credit:
NASA/JPL-Caltech/MSSS)
♂・・・・・・この期間には、6名の報告者から2月中の観測15件の報告があった。国内からはなく、アメリカ大陸側から3名9観測、ヨーロッバから2名3観測、南アフリカから1名3観測の内訳である。追加報告が、森田氏からあり、2016年6月の撮影の10件が寄せられた。
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
3 R Images (1, 2,
フランツ・クラウザー (FKl) オーストリア
1 IR Image (
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
2 Colour Images (4,
ポール・マキソン (PMx) アリゾナ、アメリカ合衆国
1 IR Image
(
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
2 IR Images
(4,
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
5 Sets of RGB + 5 IR Images (1, 3, 5, 8, 22,
31cm SCT with a Flea 3 & ASI290MM
♂・・・・・・今回も日付を追って、二月の報告画像の短評を行う。
Paul MAXSON (PMx)氏がIR685像をω=276°Wで与えた。Mewlon 250にASI 290MM使用。朝方のシュルティス・マイヨルは程良い濃さで見え、ヘッラス北部の明るさ等も明確。問題は夕端近くのマレ・キムメリウムが矢鱈濃いことで描冩異常。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170201/PMx01Feb17.jpg
Clyde FOSTER (CFs)氏がBaaderのRフィルターで單獨像をω=145°Wで与えた。36cm SCTにASI 290MMを付けて撮像。マレ・シレヌムの邊りが濃い模様を成し、マレ・クロニウムも見えるか。ポエニキス・ラクス邊りの斑點群も見える。夕方のソリス・ラクス邊りはゴースト混じりで危ない。南極冠は微弱。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170201/CFs01Feb17.jpg
Efrain
MORALES (EMr)氏は31cm SCTに290MMを付けてCustom Scientific RGBフィルターsetでRGB合成像をω=224°Wと IR685による赤外像をω=225°Wで作成。合成カラーは適当な色合い。アウソニアはベージュ色、マレ・キムメリウムの北の沙漠は少し赤っぽい。北縁は白っぽい。マレ・キムメリウムは赤外で少し細かく出ているか。 南極冠はGやBでも微弱。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170201/EMr01Feb17.jpg
CFs氏が同じくRフィルターで單獨像をω=141°Wで撮った。前日と同じ構図だが、マレ・シレヌムは更に暈けている。お蔭で夕端のゴーストも不明である。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170202/CFs02Feb17.jpg
EMr氏はRGB合成像とIR685による赤外像をω=209°Wで撮像。シーイングは理想的ではないが、IR像で明るいアウソニアが、RGB像では綺麗に赤味を帯びている(淡いワイン・レッドの色)。一方、マレ・キムメリウムの北の沙漠はベージュ色。ケルベルスは痕跡が見えるかもしれない。北縁から夕縁は白く靄っている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170203/EMr03Feb17.jpg
Martin LEWIS (MLw)氏が落ち着いた感じのASI 224MC像をω=116°Wで与えた。44cmのドブソニアン使用。残留南極冠は小さい圓形面積を示して見えている。模様としてはソリス・ラクスが夕方に綺麗に見え、チトニウス・ラクスもその北に確認出來る。オピルは細くなったがみえ、アウロラエ・シヌスも細く見える。ソリス・ラクスに続いてはパシスも線状に確認出來、北のポエニキス・ラクスに繋がっている。案外、タルシス三山も暗點として辿れるかもしれない。朝方にはマレ・シレヌムの半分ぐらいは見えている。パルヌリ・フレトゥムも薄暗い。この像ではゴーストが巧く処理されていて、北縁の白霧も小型。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170204/MLw04Feb17.jpg
Frank J MELILLO (FMl)氏がIR610像をω=196°Wで作像、25cm SCTにDMK装備。δ=5.0"ながら、コントラスト好く、マレ・シレヌムからマレ・キムメリウムに掛けてなかなか好く描冩され、マレ・クロニウム邊りも稍濃い。北ではトリウィウム・カロンチスも見えているかもしれない。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170204/FMl04Feb17.jpg
EMr氏はIR685による赤外像をω=182°Wで撮像した。マレ・シレヌムが夕方中央にでんと構え、朝方のマレ・キムメリウムに繋がっている。アウソニアは明るくない。南極冠も不明。マレ・シレヌムの北ではメソガエやアマゾニスが杳いかもしれない。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170205/EMr05Feb17.jpg
EMr氏はRGB合成像をω=153°Wで得た。マレ・シレヌムが中央の圖である。マレ・シレヌムもRで鮮明ではなく詳細は難しいが、色合いの変化が面白い。Rではマレ・シレヌムの30°Sライン、マレ・クロニウムの60°Sライン、それに南極冠近くのデプッレシオ・パルワ邊り(80°S)に暗帯が断層のように奔るのだが、それらの間の空き地はRでは明るく出ている。ここがGやB等の影響を受けてRGB像ではベージュ色になるのだが、特徴は高緯度になるほど白霧に覆われているように見える。EMr氏のカラー像では、北縁が白いことのほか夕縁も白く、これが高緯度のテュレTにまで続いている様に見えないことはない。南極冠の周りはGとBによって白霧が描き出されているということである。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170208/EMr08Feb17.jpg
WienのRobert SCHULZ (RSz)氏の友人のFranz KLAUSER (FKl)氏の画像がRSz氏によって送られてきたもので、IR742フィルター付のDMKを38cm反射鏡に取り付けてω=017°Wで撮ったものである。シヌス・サバエウスが濃い他は、特にIRのいやらしさはなく、ノアキスの描冩などは好いと思う。パンドラエ・フレトゥムからマルガリティフェル・シヌスまでも緩く表現しているが、マルガリティフェル・シヌスには鮮鋭さはない。ニリアクス・ラクスも見えている。マレ・セルペンティスの尻尾は淡く太くもない。ヘッレスポントゥスが太い。南極冠は見えているが稍大き目。夕端の處理がすっきりしない。緯度は48°N近くだから、高度は我々より10度も低い。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170215/FKl15Feb17.jpg
MLw氏がASI 224MC像をω=341°Wで与えた。流石、δが5"角を切って、詳細は無理になったが、夕方のシュルティス・マイヨルの描冩も好く、ヘッラス北部の明るさも出ている。シヌス・サバエウスもマレ・セルペンティスの尻尾の太さも見られる。パンドラエ・フレトゥムも見え、マルガリティフェル・シヌスは朝縁近くに潜んでいる。南極冠も存在が分かる程度。北縁は稍白い。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170218/MLw18Feb17.jpg
CFs氏がRの單獨像をω=326°Wで撮った。シュルティス・マイヨルが夕方に見えている。シヌス・サバエウスの付け根も濃く、ヘッラスの北半分の明るさもreal。然し夕縁に沿って怪しげな暗帯が気になる。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170219/CFs19Feb17.jpg
FMl氏がIR610像をω=050°Wで得た。いきなりは「火星」には見えない。マルガリティフェル・シヌスとアウロラエ・シヌスが固まって円い暗部に見えるだけ。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170219/FMl19Feb17.jpg
EMr氏が非常に重要で興味のあるRGB合成像をω=015°Wで撮った(他にω=014°Wで赤外像)。基本的な像としては必ずしも整っておらず、幾つか判断の難しいところがあるが、朝方アウロラエ・シヌス近くに黄塵が起こってクリュセの方に掃いている様に見える。幾らかマレ・エリュトゥラエウムをも侵しているように見える。一方、ノアキスは稍赤っぽい。パンドラエ・フレトゥムは可成り薄いが、シヌス・サバエウス/シヌス・メリディアニも鮮明ではないものの、Rに基づいて最も濃い模様である。マルガリティフェル・シヌスの北部は出ているが、その西南は砂塵が舞っているかもしれない。ニリアクス・ラクスはRで見え、RGBでは邊りが白霧に覆われているかもしれない。アウロラエ・シヌスに近いクリュセはアラムの赤味を示さない。エドムの邊りも赤味を帯びて晴れている感じ。白霧混じりの黄塵か。南極冠は可成り見えている。殘念ながらこの日の黄塵の前後の観測も、また發達・衰退を示す観測も揃っていない。MOC-MARCIとの對應・比較は、シーズン後、Noteで行う予定。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170222/EMr22Feb17.jpg
EMr氏がω=330°WでRGB合成像とIR685赤外像。(前回22Febからは五日ほど跳んで場面は変わってしまった。) もはやδは限界に近く、シュルティス・マイヨルもシヌス・サバエウスもボンヤリしているが、位置は正確で、マレ・セルペンティスのところも濃く、尻尾はノアキスの太い暗帯に繋がっている。シュルティス・マイヨル西岸から赤味が出て、アエリア東部は肌色で綺麗な仕上がりに見える。δ=4.6"とは思えぬほどの味のある画像である。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170227/EMr27Feb17.jpg
♂・・・・・・ 追 加 報 告:
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
10 Sets of LRGB
Images (1, 2, 13, 14, 17 June 2016) 36cm SCT with a Flea 3
♂・・・・・・・ 追加報告のレビューは、観測シーズン終了後のReportでまとめることになる。
画像は以下のリンクから見ることが出来る。
Mo: http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/index_Mo.html