ハレアカラ観測所の東北大学60cm反射望遠鏡(T60と呼んでいる)はコンピュータ制御の望遠鏡である。ドームやミラーカバーの開閉はもとより、目標を選んでGOTOボタンをクリックすれば自動的にその惑星が視野に入ってくる。ドームの回転は望遠鏡にリンクしていて鏡筒の方向に自動的に向いてくれる。天気の目安は湿度で行い、80%か90%を超えるとドームが自動的に閉まる。
2015年3月、初めてマウイ島ハレアカラ観測所を訪れたとき、持って行ったのはタカハシのカメラアダプターであった。ご存知の通り、フィルターの交換は手で行った。「電動のフィルターホイールを使ったら良かったのに」とは、東北大学惑星プラズマ大気研究センターの鍵谷氏の指摘であったように記憶している。
電動のフィルターホイールは、2014年5月に飛騨で観測した際に、福井の西田氏が持参して来られて、便利なものだと思った記憶があったが、西田氏のものはもう売っていないとのことで、購入や検討を断念したことがあった。早速、電動フィルターホイールについて調べてみると、StarlightXpress社製のUSBフィルターホイールはASCOM(AStronomy
Common Object Model)にも対応していて、FireCaptureの中からフィルターの交換ができるので便利そうであった。
ただ私の使っているフィルターは、LRGBがAstronomik社の1.25インチで、赤外線やメタンバンドの干渉フィルターは1インチのサイズのものであったので、どう装着するか、StarlightXpressを扱っている天文ハウス・トミタさんに相談したところ、1.25インチ用のホイールを使い、1インチのものはネジをそれぞれ3か所立ててネジでフィルターを固定するという解決策を提案されたので、早速購入し加工していただくことにした。
完成したフィルターホイールにフィルターを装着し、WebカムもASI120MMに更新してマウイへ向かったのは2015年9月のことであった。(余談だが、このフィルターホイールは福岡空港でも成田空港でも手荷物検査に引っかからなかったが、ホノルルの空港では「何これ」と質問され、光学フィルターだと答えると、あなたは天文学者なのかというやり取りがあった。)
ハレアカラ到着後、T60望遠鏡に装着して土星の撮像を行って、無事動作することを確認した。翌日はKulaにある宿舎からリモートで撮像できるか試したところ、何の問題もなく、撮像することができた。後日、日本に帰ってから時間を打ち合わせてリモート撮像のテストを行ったところ、多少レスポンスは遅く感じるものの、十分使えることが判明した。
ただ心配したのは撮影画像データの転送の問題だった。Kulaの宿舎でテストした時はデータをWinSCPというソフトでダウンロードして問題はなかったが、日本へはダウンロードに時間がかかりすぎるのではないかと不安になり、鍵谷氏に相談したところ、ハレアカラ山頂は空軍の施設があるので太いケーブルが敷設してあるから、いったん東北大学のサーバーに転送し、そこから自宅へ送ってはどうかと提案していただいた。
現在その方式でハレアカラ→東北大学→自宅へと画像データを転送しているが、木星の場合RGB各2.6Gバイト、Lが3.9Gバイトあるので12Gバイト弱を転送するのに1時間30分ほどかかる。ただし、WinSCPを2つ起動して転送しても1つの時と転送速度はほとんど変わらないので、実質2倍の転送速度ということになる。撮像終了後、ハレアカラのコンピュータのcygwinからrsyncコマンドで東北大学のサーバーに画像データを送り、2時間ほどしてから我が家のPCで起動したWinSCPで東北大学のサーバーからダウンロードしている。だいたい寝ている間にダウンロードは完了する。
今シーズンの当初は、鍵谷氏の木星分光観測(イオのプラズマトーラスの分光とのこと)が夜明けまで行われていて、火星の撮像などの時間はなかったが、3月末になり木星の分光観測もハワイ時間午前4時ころには終わるようになると、夜明けまでの空き時間を利用して火星の撮像も行えるようになった。木星の撮像と並行して行うのは身体的負担が大きいので3日に1回程度と決めているが、細々と火星のリモート撮像を自宅から行っていきたい。それにしてもネットの普及ですごい時代になったものだと改めて感じている。