ISMO 2013/14 Mars Note (#07)
村上
昌己
私は以下で2014年にエリュシウム・モンスの頂上雲がどのような動向を示したか、ISMO Mars Galleryの数々の画像を手繰り、エリュシウム・モンス(Φ=215°W)の地方火星時(Local Martian
Time=LMT)を参照しながら、見てみようと思う。この問題については、前回接近の時の様子をクリストフ・ペリエ氏がCMO #407 (25
February 2013) ISMO 2011/2012 Mars Note #09
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/407/ISMO_Note_2011_09.htm
で優れた議論を展開しているが、私の場合は、気象的ないしダイナミックな考察よりも、どの様な資料が集まっているかを示すにとどめるので、これを叩き台として、更なる新考察を期待したいし、次の観測の計画のヒントが醸されれば幸運かと思う。
さて、古典的な五角形とか円形のエリュシウムという描像は既に崩壊しているが、近年はアエテリアの暗斑が1975年以来、東寄りに動いた形でエリュシウムの西側の境界を形成し、最近ではこの暗斑の東側に沿うピンク色の帯と、エリュシウム・モンスの白雲が綺麗な対照をなしているという構造を維持している。例えば、1999年のHST像にはこのことが可成り内部で次のように捉えられている。
HST像ではエリュシウム・モンスの位置が明確である。ドン・パーカー(DPk)氏の画像では(後でも触れるが)朝方の霧を大きく被っていて、朝縁近くの朝霧に連動しているのがわかる。アエテリア暗斑の東側縁に沿うピンク帯はHST像でもDPk氏の像でも出ており、白雲と関係なく地肌のように見える。右端のビル・フラナガン(WFl)氏の画像は衝を遙かに過ぎたころで、エリュシウム・モンスのLMTはまだ正午直前、モンスの白雲はピンク帯に平行して南に同じように延びているように見えるが、実際はB像で 見るとモンスを含む南北帯の雲は明るく、ピンク地肌は殆ど出ていない。当然ピンク帯は雲ではないわけである。
ここで気になるのは、エリュシウム・モンスの頂上を覆う山岳雲は西に棚引かないこと、むしろ南に向かい、DPk氏の像が示すように、シュルティス・マイヨルの東側の朝霧と連結している、という現象である。これはタルシスの場合とどう違うのかは面白い課題である。南政次氏の仮説によると、火星の水蒸気の循環は高山系の存在によって左右されるというか、維持されているという面がみられ、タルシス系とエリュシウム系との比較は重要なことのようである。もう一つは、水蒸気の循環は黄雲の発生によって停止することが2001年のタルシス山系の観測によって知られているので、今後黄雲発生時にはエリュシウム・モンスに関しても注意する事が必要であろう。次の画像はCMO #259の2001 Mars CMO
Note#05「2001年七月初め黄雲まみれのエリュシウム」(Elysium
Planitia Dust Clouded at the Beginning
of July 2001)からの引用画像だが、残念ながらエリュシウム・モンスの雲の発生時期が多分、λ=200°Ls頃までで、2001年黄雲はλ=184°Lsであったから、微妙なところであった。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/259Note5/index.htm
エド・グラフトン(Ed GRAFTON、EGf)氏の画像はλ=181°Lsのもので、黄雲発生直前だが、水蒸気雲があるかどうかは一寸判らない。しかし、30June以降の日本の観測では、エリュシウム・モンスは暖かい黄雲によって影響を受けたことが示されていると思う。
なお、アルシア・モンスの山岳白雲は他と違ってλ=200°Lsを超えても存続することが知られている。これはタルシス山系の南端の気象と関係するので、要注意点である。
さて山岳系の場合、早朝と夕没前の状況がどのように観察されるか、というのが大切な課題であろう。次のFig.Aの例は、早い時間のものであり、Fig.Bは遅い時間のものである。
ここで07:10LMT像のCPlはクリストフ・ペリエ氏のコードで、RBsはリシャルト・ボズマン氏である。 同じ3May(λ=125°Ls)の画像で、LMTでほぼ一時間ほどの差がある。エリュシウムと同じ緯度で朝霧が強い。RBs氏像で、ピンク帯が少し見え、エリュシウム・モンスも朝霧に包まれ始めているようだ。あとで別の画像で示すが、エリュシウム・モンス系でも、山頂雲は朝の蒸気によってもたらされる可能性がある。
次は、逆に夕方のデミアン・ピーチ(DPc)氏による情景である。LMTで一時間半ほどの差であるが、15:45LMTでは、ほぼエリュシウム・モンスから発する南向きの白雲帯とやや夕霧を被ったピンク帯が出ている。17:10LMTではlimb cloudが見えるだけでもう詳細は判らない。実は、これは衝後のイメージであるが、実際に夕方の様子を知るには衝前で位相角ιの大きいときの影像の方がよい。しかし、今回は衝前の適当な画像は少なかったと思う(但し、以下のFig.4を参照されたい)。
さて、次に7:10LMTと17:10LMTの空隙を埋めるべく、像をエリュシウム・モンスの画像をLMT順にしたがって四ファイルに纏めて、示してみよう。
ここで、DPk氏はドン・パーカー氏、MVl氏はモーリス・ヴァリムベルチ氏、WFl氏はビル・フラナガン氏、Km氏は熊森照明氏である。DPk氏の像は優れていて、エリュシウム・モンスの山頂雲がすでに明白だと思う。山頂雲を覆う霧が朝霧と繋がっていることは明白になっている。11:10LMTのMVl氏像では朝霧が衝後だが相当淡くなってきた。しかし山頂雲は幾らか残っているようである。WFl氏の像とKm氏の像は同じLMTであるが、季節はWFl氏の方がかなり遅く、λ=145°Lsは以下の像の中でも最後尾である。ウトピアの雲状帯も分布が違っていて興味深い。11:45LMTといえば、正午直前だが、エリュシウム・モンスの山頂はすでに雲を被っているか、朝からの状態を続けているとおもう。
MJsはマーク・ジャスティス氏のコード、WFlとDPkは既出、SBdはスティーヴァン・ブダ氏のコードである。MJs氏像はLMTが12:20と午後に入ったところで、WFl氏像と共に山頂雲を強く出し始めている。WFl氏像はエリュシウム・モンスから南に霧が伸びている。DPk氏像とSBd氏像は衝からかなり前の像で、両像ともエリュシウム・モンス山頂雲を明確にし、特にDPk氏像はその雲と朝霧とを結びつけているようである。SBd氏のλ=085°Lsは採用した今回の像の中で中で季節的に一等早いと思う。DPk氏像より霧は小さいが、エリュシウム・モンスは孤立して真っ白でBで見ると南に拡がっている。ピンク帯が綺麗である。
Fig.3は15時台の画像である。SQr氏はイタリアのステファーノ・クァレシマ氏(Stefano
QUARESIMA、ジャンニ・クアッラ氏の紹介)、AWsはアンソニー・ウェズレイ氏である。DPc氏の像は先のFig.Bの像の仲間である。いずれもピンク帯とエリュシウム・モンス雲を中核とする雲の帯(南北方向)が明白で、SQr氏像は赤道帯霧と繋がっていることを示しており、DPc氏の像ではエリュシウムの描写が鮮烈である。SBd氏像はピンクが綺麗、エリュシウム・モンスから南に霧の帯が出ている。AWs氏像はピンク帯は弱く見えるが、霧は南に拡がっているように見える。
最後にLMTで夕方の画像である。 BCr氏はメルボルンのブラティスラフ・チュルチック氏である。いずれも衝前の像を集めてある。いずれもエリュシウム・モンスは孤立する感じでなく、雲の南北帯に覆われ、この帯が依然赤道帯霧と連結している。AWs氏の16:20LMTではピンク帯も雲とは独立して明確である。CPl氏やDPk氏はさすがかなり衝前で山岳雲を撮った。
以上、LMTに従って像を並べたが、季節はλ=085°Lsからλ=145°Lsにわたっているにもかかわらず、移り変わりの中での雲の強さの変化などは掴めていない。
感想:連続撮影は個人でもできることである。たとえば、Fig.AのCPl氏はこの3Mayにおいて7:10LMTから9:45LMTまで5回観測しているのは美事である。MVl氏も8Marchに13:35~15:45LMTの間に8回撮影し、5Aprilにも8回掛けてエリュシウムの没するところを追っている。一方、CTr氏は13:00と16:10LMTの二回観測しているが、その間に観測がないのは惜しい。
次に今回のElysium Monsに関しての観測はCMO/ISMOには次のように観測が集まっている。上に引用した観測はこれに含まれる。尚、5AprilのMVl氏の観測のように、数点の連続観測から一点だけ抜き出したようなものもある。
DATE λ
ω
ι Observer Local Martian Time
Mar 06
099°Ls 254-270°W 24°
AWs
16h20m- 17h15m
Mar 07
099°Ls 263°W
23° MJs
16h45m
Mar 08
100°Ls 217-250°W 22°
MVl
13h35m- 15h45m
Mar 08
100°Ls 248°W
22° SBd
15h40m
Mar 08
100°Ls 256°W
22° MJs
16h10m
Mar 09 100°Ls 234°W
22° AWs
14h45m
Mar 09
100°Ls 244°W
22° MJs
15h25m
Mar 12
101°Ls 200°W
20° MJs
12h20m
Mar 12
101°Ls 202°W
20° SBd
12h30m
Mar 13
102°Ls 189°W
20° MJs
11h35m
Mar 18
104°Ls 276°W
17° JPp
17h10m
Mar 18
104°Ls 214-253°W 16°
Mkd
13h00m- 15h35m
Mar 20
105°Ls 278°W
16° CPl
17h15m
Mar 21
105°Ls 258°W
15° SQr
15h50m
Mar 23
106°Ls 177°W
13° MKd
10h20m
Mar 29
109°Ls 255°W
09° EMr
15h15m
Mar 30
109°Ls 222-269°W 08° CTr
13h00m- 16h10m
Apr 01
110°Ls 205°W
07° EMr 11h50m
Apr 01
110°Ls 230°W
07° PGc 13h30m
Apr 02
111°Ls 187°W
06° DPk 10h32m
Apr 02
111°Ls 223°W
06° PGc 12h55m
Apr 03
111°Ls 182°W
05° FWl 10h10m
Apr 03
111°Ls 182°W
05° PGc 10h10m
Apr 05
112°Ls 290°W
03° BCr 17h10m
Apr 05
112°Ls 293°W
03° MVl 17h25m
Apr 06
112°Ls 161°W
03° PGc 08h35m
Apr 06
113°Ls 287°W
03° BCr 17h00m
Apr 08
114°Ls 272°W
02° AWs 15h55m
------------------------- opposition
----------------------------------
Apr 09
114°Ls 274-284°W 02° Mo 15h45m-16h30m
Apr 10
115°Ls 291°W
02° AWs 16h55m
Apr 11
115°Ls 259°W
03° AWs 14h45m
Apr 14
116°Ls 221-248°W 05° MVl 12h05m-13h50m
観測者略号は以下の各氏をあらわしている。
AWs (Anthony WESLEY, AUSTRALIA), BCr (Bratislav CURCIC, AUSTRALIA)
CPl (Christophe PELLIER, FRANCE), CTr (Charles TRIANA, COLOMBIA)
DPc (Damian A PEACH, the UK),
DPk (Donald C PARKER, the USA)
DTy (David TYLER, the UK),
EMr (Efrain MORALES RIVERA, Puerto Rico)
FWl (Freddy WILLEMS, the USA),
JBd (John BOUDREAU, the USA)
JPp (Jean-Jacques POUPEAU, FRANCE), Km (Teruaki KUMAMORI, JAPAN),
LAt (Leo AERTS, BELGIUM),
MJs (Mark JUSTICE, AUSTRALIA)
MKd (Manos KARDASIS, GREECE),
MLw (Martin R LEWIS, the UK)
Mo (Yukio MORIRA, JAPAN), MVl
(Maurice VALIMBERTI, AUSTRALIA),
PGc (Peter GORCZYNSKI, the
RBs (Richard BOSMAN, the
SQr (
XDp (Xavier DUPONT, FRANCE),
-------------------------------------------------------------------------------------------
その他参考 エリュシウムに関してCMOの過去の記録
*CMO #383 (10 April 2011) "2009/2010 CMO『火星通信』火星観測ノート(11)"
「位相角の大きいときのターミネータ近くでの火星の火山」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/383/2009_2010Note_11.htm
"Big Volcanoes on
Mars Near the Terminator When the Phase Angle Is Large"
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO383.pdf
(English)
(Ser3 p0110)
*CMO #389 (25 September 2011) "2009/2010
CMO『火星通信』火星観測ノート(19)"
「北半球早春の明るいエリュシウム・モンス」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/389/2009_2010Note_19.htm
"Bright Isolated
Elysium Mons in Northern Early Spring"
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO389.pdf
(English)
(Ser3 p0188)
*CMO#205
(25 July 1998) "1996/97 Mars Sketch (7)"
「1997年三月のエリュシウム 7 Mar (087°Ls)
to 13 Mar (090°Ls)」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note07j.htm
"Elysium in March
1997"
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note07.htm (English)
*CMO#197 (25 November 1997) "1996/97 Mars
Sketch (1)"
「107°Lsにおけるエリュシウムから朝方に掛けての朝雲活動」
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note01j.htm
"White-Cloud Burst
over Elysium to the Morning Side"
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note01.htm (English)
*CMO#140 (25 December 1993) p1327
"1992/93 CMO Note (13)"
「エリュシウムの12 Feb の森田現象について」 039°Ls
" On the
MORITA Phenomenon Observed in Elysium on 12 Feb 1993"