東北大学惑星プラズマ・大気研究センターは、福島県の飯舘村に三鷹光器の60cm反射を設置していたが、東北の大震災のため飯舘村が放射能の汚染地域になってしまったため、昨年秋その望遠鏡をハワイマウイ島のハレアカラ山頂にあるハワイ大学の敷地に移設した。その望遠鏡を使っての惑星撮像をお願いしたところ、使用許可がおりたので、三月に使わせていただいた。以下はその記録である。
3月7日 (土)
13時10分福岡発の全日空機で成田へ、18時55分発のUNITED航空機でホノルルへ、9時36分發のHAWAIIAN航空機でマウイ島のカフルイへ飛ぶ。ホノルル空港内のハワイ銀行のATMでドルを引き出す。引き出し限度額は300ドルだったので、二回に分けて500ドルを引き出した。 この現金はゲストハウスの宿泊料の支払いが現金のみだからである。
10時20分頃、到着。カフルイ空港には鍵谷さん(東北大学助教)が迎えにきてくれた。バジェットの営業所でレンタカーを借りる。保険が高い。借りた車はフォードのハイブリット車でキーを差し込まないタイプである。久しぶりのアメリカでの運転で緊張した。
ゲストハウスの看板
まずPukalaniのスーパーマーケットで、食料とビールを購入する。34ドル。カップ麺やお米、納豆まで置いている。ここはもちろんクレジットカードが使える。その後ハワイ大学のOfficeに連れて行ってもらう。月曜日以降、ゲストハウスの宿泊料を支払う場所である。その後、ゲストハウスへ行く。Kulaというところにあり、標高約1000mで平地より寒いが、マウイ島西部の海岸線が一望できる。木造の古い家であるが、冷蔵庫や調理道具など必要なものはすべてそろっている。ただし食事は出ないので自炊か外食である。
17時に観測所に行くことにして、昼食、昼寝をとる。ぐっすり寝たのでフライトの疲れがとれる。
ハワイ大学のゲストハウス
17時、真冬のような装備で、ゲストハウスを出発。すぐ脇のCopp Roadという通りの名前を教えてもらい、帰るときに目印にすることにする。鍵谷さんの車について行くのが精一杯であったが、一時間でハレアカラ観測所に到着(25マイル程)。途中霧がかかっていたが一旦晴れ、期待されたが、山頂も霧であった。ゲートの外で車を降りて観測所まで歩く。寒い(滞在中、夜間は通常2~3度、最終日はやや暖かくて6~7度であった)。標高3000mのためわずかな起伏でも息が切れる。夜間はPan-STARRS計画で敷地内の望遠鏡を使っているため、歩行の灯りも足元だけに限定することを指示される。
東北大学60cm望遠鏡(T60)のドーム
東北大学の60cm望遠鏡に到着後、クーデ焦点への持参のWebカムとタカハシカメラアダプターの撮影系を装着する。2インチスリーブなので簡単に接続できる。その後、望遠鏡の操作説明を受ける。ターゲットの天体を選び、GOTOボタンをクリックするだけで、天体が導入できる。ドームの回転も望遠鏡にLinkしているので、完全にコンピュータ制御できている。電動フィルターホイールを購入し撮像系もコンピュータ制御できれば、遠隔撮影も可能になるかと期待される。
60cm反射望遠鏡(三鷹光器製)
クーデ焦点
狭いドームに機材がたくさん置かれスペースがほとんどない。19時30分まで待機したが、湿度が90%から下がらないので独り下山。途中金星が見えたりしたが、そのまま無事帰って、ビールとワイン、ウィスキーを飲み、シャワーを浴びて就寝する。
3月8日 (日)
朝目覚めると、ゲストハウスのまわりにも霧がかかっていた。納豆ご飯とヨーグルトの朝食後、昨日のスーパーへ買い物に行く。帰りにハワイ大学のOfficeの場所を確認する。帰宅後、Dan (ゲストハウスに同居しているIfA=Institute for Astronomyのエンジニア)に炊飯器の使用許可をもらう。時差のためか、眠気を覚えたので昼寝をする。
起床後、再びスーパーへ買い物に行き、お米を買う。今日は昨日より寒く感じる。
夕方より、東北大学を定年退職された岡野先生(三年前からマウイ島にお住まいとのこと)のお宅で食事をいただく。岡野夫妻の他、同席したのは東北大学の笠羽先生と鍵谷さんである。メインディッシュはステーキで、それ以外にも海老のサラダ、付け合せのポテト、デザートのココナッツミルクの寒天、パパイヤなど豪華な食事であった。笠羽さんから当面の天気予報を聞かされ、焦らないように指摘される。ゲストハウスに帰宅後、鍵谷さんと電動フィルターホイールの件や、来年度以降の観測の打ち合わせを行う。
ビール、ワイン、ウィスキーを飲んで就寝。
3月9日 (月)
朝目覚めると、太陽光を感じる。昨日より天気は良いようだが、山頂は雲が多い。昨日と同じメニューの朝食後、運転の練習を兼ねてカフルイ空港までドライブする。途中、ハワイ大学の事務所に寄り、ゲストハウスの宿泊費を払おうとするが、担当者不在のため、明日来るように言われる。カフルイ空港へは問題なく行くことができ、レンタカーの営業所の場所も確認した。帰路、スーパーに寄り、若干の食料を購入する。
制御用コンピュータの画面
午後、昼寝をした後、夕食を食べて、17時ゲストハウス出発。19時過ぎより雲の切れ間より撮像開始、途中快晴になり、26時頃まで、不完全セット(RGBのみ)を5セット、完全セット(RGB+赤外線連続光、メタンバンド2)を4セット撮像。ついでに土星もRGB1セット撮像する。帰宅後、シャワーを浴びて就寝。
3月10日 (火)
10時ごろ目覚め、朝を兼ねた昼食の後、ハワイ大学の事務室でゲストハウスの滞在費480ドルを支払う。本日は下界も快晴で、山頂には低い雲がある程度。帰ってきて、昼寝。
17時に出発し、18時頃ハレアカラ山頂に到着する。ドームを開けると、岡野先生、坂野井さんご家族、金星観測の二人(中川さんと大学院生)で、ドームの中はすし詰め状態。皆さんお帰りになった後、鍵谷さんが帰国のための荷造りを始める。その後、木星が雲間からちらほら見え始めたので、自分で操作して撮影を試みるが、視野が狭いため入れることができない。鍵谷さんに入れてもらう。一人で撮像できるか不安になる。なんとか不完全セットを1セット撮像したが、シーイングも良くないので下山。
3月11日 (水)
朝から曇り空。そのうち霧がかかって本格的な雨になる。一昨日に撮影した画像の処理を行う。RGBでは良い画像が得られた。天気予報によると今日と明日は観測が難しいとのこと。
3月12日 (木)
雨はあがったが、雲に覆われている。午前中、ガソリンを給油。セルフで行ったが、カードの向きが違うのか何度やってもはねられた。カウンターで20ドル支払い、その分給油したが、レバーを上に上げるのを知らずに次の人にしてもらう。
昼食後、マウイ島西海岸のKihei までドライブ。リゾートホテルが立ち並び、ここまで来るとハワイという気がする。
帰ってきて天気予報を見ると、今夜も無理らしいことが分かる。
3月13日 (金)
朝から晴れている。ガソリンの給油に再挑戦し、すぐにできた。カードの向きをちゃんと確認すべきであった。Pukalaniのスーパーの横のハワイ銀行のATMでドルを引き出せるか試す。ホノルル空港同様、日本語の表示も出て、引き出せそうである。(但し、上限300ドルまでは同じ。) 昼食後、仮眠をとる。
17時にゲストハウスを出発し、18時に山頂に到着する。東北大学の中川さんと入れ替わりにドームへ行く。19時10分より、撮像を開始し、気流の悪くなった25時まで、完全セットを8セット撮影する。画像処理が楽しみ。
3月14日 (土)
朝から快晴。スーパーへ行きカップラーメンを一個だけ買う。
昼食をとりながら、昨日の二番目のセットのRGBの画像処理を行う。期待していたほどは良くなかった。
17時にゲストハウスを出発して、18時山頂に到着する。中川さんがまだ観測所にいたので、シーイングの具合を尋ねる。良かったとのこと。19時10分より、完全セット9セット、ついでに土星のRGBも撮影する。月曜日も撮影したが、画像処理の結果に満足できなかったので、再挑戦した。帰路、側溝に転落し、右のまぶたから出血するが、片目で運転して何とか帰宅する。いつものスーパーへ走ってバンドエイドを購入し、応急手当をした。これで日本へ帰れると一安心。
寝ると起きられるか自信がなかったので、眠らないまま6時30分頃、ゲストハウスを出発。空港に7時半ごろ到着。ホノルル、成田を経て無事帰国する。
結局、終日晴れたのは、8晩の滞在中3晩だけであった。撮影できた画像よりも大きな収穫は東北大学の惑星研究グループと親しくなれたことではなかったかと思う。来年もハワイで、それ以降は日本からの遠隔操作で撮像観測を継続していきたいと思っている。