ISMO 2013/14 Mars Note (#02)
クリストフ‧ペリエ
近内令一譯
先号の2014年火星観測期の最初のノートでは、火星の北半球の夏の雲を伴う前線活動についての科学的概説を述べた。ここでは2014年に詳細に観測されたこの興味深い活動について包括的に記述してみよう。アマチュア観測家たちは長いこと、HSTが1999年に記録したようなハリケーンに似た、明瞭な目を伴う北極域の白雲を捉える機会を待ち望んでおり――そして2014年が、前世紀末のHSTの記録以来の観測好期となった。(既にCMOでも述べられたように、1997年及び1999年に何人かのアマチュア観測者たちがこの有名な白雲を間違いなく捉えているが、今日の水準に比べると当時の記録法の解像度は著しく低く、詳細な形状を見ることはできなかった。)言うまでもなく、現代のデジタル撮像技術の高さによって何人かの観測者はこの白雲の円形の形状を確実に捉えた;しかし今回の観測期の成果としては、辛うじて、なんとかまともな質、量で北極域白雲前線活動を記録できたというのが正直なところであろう。
2014年には白雲前線の活動は太陽の火心黄経 (Ls)
にして20°ほどの期間に限られた
2014年の白雲前線の全体的な活動の進展を評価するために筆者は、4月1日
(λ=111°Ls) から6月30日
(λ=154°Ls) の期間中の各日について、白雲活動を3段階のレベルに分類判定することを試みた。白雲前線活動はλ=120°Lsで始まり、
λ=130°Lsでピークを迎えることを思い起こしてほしい。
♦ レベル0
は白雲活動が全く認められない、もしくは特記すべき活動がない状態。
♦ レベル1
は明瞭な白雲前線が
(円形でなくて)
直線状に見られる、もしくは白雲の輝度が低い、すなわち水蒸気の吹き上がりが弱いことを示すと思われる状態。
♦ レベル2
とみなされるのは明瞭な目を伴う円形の白雲、もしくは濃くて明るい雲――
すなわち画像で分解されないが、円形⁄多重の前線
(目が塞がれた)
である可能性が高い状態。
筆者が高い確度で推量するところでは、その円形の形状はその時点でそこに強い低気圧性環流が存在する証しに他ならず、先号のNote#1に述べたように、その実態は二つの前線がグルグルと巻き込んだ状態であろう。従ってこの状態をレベル2とみなして差し支えないだろう。もし特定の日に観測データが得られなかった場合にはレベルの値は空白のままにした;日によってはところどころ、中間刻みの値
(たとえば1.5など)
を与えてある。日々の活動度は目で見た感じでの判定であって非常に厳密な評価ではないが、それでも興味深い傾向が明らかに見て取れる。以下で見てほしいのは、実際の画像にどのような評価の値が与えられたかの例である;図1はLsすなわち太陽の火心黄経の度盛りに対してプロットした白雲前線の活動傾向カーブである。画像は主にCMOとSAF
(Société Astronomique de France) のギャラリー収録分を用いたが、データが欠落している場合には随時他の火星画像ソースにも当たった。
図1:2014年のマレ・アキダリウム北方の白雲前線の進展を概括する曲線図示。
0 = 特記すべき観測なし
1 = 単独の直線状の前線、もしくは輝度の低い白雲前線
2 = 円形の濃く明るい雲塊
白雲前線活動の開始 λ= 116°〜122°Ls
2014年には活動は4月中旬あたりに始まった;白雲前線の存在の最初の弱い徴候はλ=116°Ls (4月13日) に見られたが、本格的な活動の開始はλ=119°Ls (4月19日) であった。単独の直線状の前線はλ=122°Ls (4月26日) まで観測された。この期間の最後の火星日 (4/26)には、部分的に円形かと思われる薄い白雲が火星地方時の正午近辺で捉えられたが (たとえばPhil MILESやChristopher
GOらによる画像:Galerie d’images de la SAF、ALPO Japan Planetary Archives等参照)、地方時の朝方のデータ (Gary WALKERによる: CMO/ISMO 2013/2014 Mars Gallery参照) では確実ではない。
図2:開始期に観測された白雲前線の例。
左:λ= 118°Ls (4月19日
― Efrain MORALES)。
中:λ= 119°Ls (4月20日
― Damian PEACH)。
右:λ= 121°Ls (4月25日
― Paul MAXON)。
白雲活動の最盛期 λ= 124°〜129°Ls
λ=122°Ls /123°Lsに活動の小休止が起こったようで、その直後から、λ=124°Ls (4月30日)からλ=129°Ls (5月12日)の期間に渡る第二期の活動が始まり、多少の変動はあったが主として円形の白雲を伴う前線が観測された。この期間のアマチュア観測者が捉えたデータは良質であり、さらなる詳述に値する!
図3:円形すなわち多重の白雲前線が活動最盛期の目玉となる。
左:λ= 124°Ls (4月30日
― Stefan BUDA)。
中:λ= 124°Ls (5月 1日 ― 森田 行雄)。
右:λ= 125°Ls (5月 3日
― Christopher GO)。
右端のGOの画像の白雲は非円形の例だが、図1に示した活動3段階レベルの最高値“2”に値する:これには複数の前線が含まれ、明るい雲を維持し続けている。
単独線状の白雲前線活動に戻る λ= 130°〜135°Ls
第三期の活動はλ=130°〜135°Ls (5月13〜24日) に渡り、円形の白雲前線は観測されない。活動は依然として非常に興味深いが、風の循環はもはや円形の白雲を形成しない。
図4:第三期、活動がやや衰退する。
左:λ= 130°Ls (5月13日
― Mark JUSTICE)。
中:λ= 131°Ls (5月14日
― Martin LEWIS)。
右:λ= 133°Ls (5月19日
― Almir GERMANO)。
λ=135°Ls以降の白雲前線活動の衰退
そしてその後、λ=135°Ls以降に活動は急激に衰えを見せ、6月一杯の間は明瞭な動きは全く捉えられない――例外としてCharles
TRIANAによるλ=139/140°Ls (6月1〜2日) の記録があるが (CMO/ISMO 2013/2014 Mars Gallery参照)、白雲の緯度が低過ぎる (南寄り過ぎる) ようだ。ここでは、決定的な結論を引き出すほど画像の質は高くないのが残念であるし、また図1に明らかなように、この期間にはデータの欠落日が多い。MRO MARCIの火星天候レポート動画は欠落を補うのに有効だが、これにも目立った活動は認められない――まあMRO MARCIレポートでは白雲前線の活動が最も盛んな地方火星時の画像は得られないのだが。しかしながら、円形の、あるいは濃密な白雲前線であれば地方時が正午に達してもまだ残って見えてしかるべきであろう。
図5:最終期の典型的な朝方のマレ・アキダリウムの画像。
白雲活動は全く、もしくはほとんど認められない。
季節は火星北半球の夏の後半に達している。
左:λ= 143°Ls (6月9日
― Stefan BUDA)、
中及び右:λ= 149/150°Ls (6月21〜22日
― Xavier DUPONT)。
過去の火星年では140°Ls以降でも円形の強い白雲前線活動が認められており、従って年ごとに変動があるということだろう。全く活動のない年、また白雲前線活動が長く居残る年は共に異常といえるのだろう。図6にはHSTが1997年にλ=146°Ls (7月9日) で捉えた濃密で明るい白雲前線を示した。
図6:HSTによる1997年λ=146°Ls (7月9日)の強い白雲前線の画像。
© STScl. 画像処理は筆者による。
2014年には白雲を伴う前線活動はλ=116°Ls近辺で始まり (非常に早い)、少なくともλ=135°Lsまで持続し、ピークはλ=124°Lsからλ=129°Lsの間であった。λ=135°〜140°Ls以降におそらく異例と思われる活動の急激な衰退が認められた。
次回のノートでは、2014年に観測された火星北半球の夏期の白雲を伴う前線のより詳細な形状変化と活動状況を分析したい。