2013/2014 CMO/ISMO 観測レポート#14

2014年八月の火星観測 (λ=171°Ls~188°Ls)

CMO #428 (25 November 2014)

村上 昌己・南 政


・・・・・  接近から四ヶ月過ぎた火星は順行を続けて八月には「おとめ座」から「てんびん座」へと進んで、27日には土星と「てんびん座」で接近して追い抜いていった。月初には13°Sであった視赤緯は月末には19°Sとさらに下がっていった。視直径はδ=7.9"から月末にはδ=6.8"と一回り小さくなった。傾きはφ=21°Nから15°Nと南を向いてきたが、まだ南極地の様子は詳しくは捉えられていない。位相角はι=43°から42°となって、北極域は陰ってきた。火星の季節はλ=171°Lsから188°Lsとこの期間(17Aug)に北半球の秋分を通過した。この季節では黄雲の發生は稀であるが、2001年の場合ではλ=184°Ls (24June2001)でヘスペリアに起こっているので、要注意であった。実際澳大利亞のMaurice VALIMBERTI (MVl)氏は27Augustにヘッラスの外縁で局所黄塵を見つけている。

 

・・・・・この期間、北半球では日没時の高度はさらに低くなり、観測期は最終盤となってヨーロッパからの観測は途絶えた。しかし南半球ではまだ夕空に沈み残っていて、下旬にはオーストラリアの観測が継続している。観測報告は激減して以下のように5名の報告者から29件の報告を拝受しただけとなってしまった。内訳は国内から11観測、アメリカ大陸側から311観測、オーストラリアから117観測であった。 

 

    フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

       7 Colour Images (1, 5, 9, 14, 18, 24, 28 August 2014)  25cm SCT with a ToUcam Pro II

    エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ

       2 Sets of RGB Images  (3, 11 August 2014)  31cm SCT with a Flea 3 

    森田 行雄 (Mo)  廿日市市、広島県

       1 Set of RGB + 1 LRGB Colour + 1 L Images  (17 August 2014)  36cm SCT with a Flea 3

    ドン・パーカー (DPk) フロリダ、アメリカ合衆国

       2 Sets of RGB Images (7, 12 August 2014)  36cm SCT @f/24 with an ASI 120MM

    モーリス・ヴァリムベルティ(MVl) メルボルン、オーストラリア

       17 Sets of RGB + 17IR Images (11, 14, 15, 21, 22, 25,~30 August 2014)

                                           36cm SCT @f/24 with an ASI 120MM 

 

・・・・・  観測は次のようになされている。各観測を短評する。

 

1 August 2014 (λ=171°Ls,  δ=7.9"~7.8")

      Frank MELILLO (FMl)氏がω=098°Wでカラー単像を撮った。夕方にニロケラスとソリス・ラクスの痕跡が見える。左端は白霧で強い。

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3 August 2014 (λ=172°Ls,  δ=7.8")

      Efrain MORALES (EMr)氏が ω=066°W 三色分解セットとRGB像を得た。午後にマレ・アキダリウムと南半球のソリス・ラクスの周邊が覗える。北極冠などは明白ではない。

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5 August 2014 (λ=173°Ls,  δ=7.7")

      FMl氏がω=059°Wでカラー単像。マレ・アキダリウムが午後に入るところか。ソリス・ラクスの周邊も暗部。北極冠の邊りは白く明るい。南端にも白部の気配

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7 August 2014 (λ=174°Ls~175°Ls,  δ=7.6")

      Don PARKER (DPk)氏がω=027°Wで三色セットとRGBの秀像。R像ではアリュン爪だけでなく、左端近くにシゲウス・ポルトゥスまで出ている。ブランガエナからオキシア・パルス周邊、マレ・アキダリウムの南部まで可成り詳しく出ているδ=7.6"ある。オクサスの周邊も複雜で、Oxus dark segmentも見えるかもしれない。オクススとマレ・アキダリウムの間の明部はGBで明白だが、實に複雑である。北極冠の位置と思われるところから、南には水蒸氣の濃霧が南に向かって出ているのがGBで明白。北極冠はRで目立たない。一方、南極冠の北端は明るく、アルギュレの方に出っ張りがあるかもしれない。

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9 August 2014 (λ=175°Ls~176°Ls,  δ=7.6"~7.5")

        FMl氏がω=018°Wでカラー単像。マレ・アキダリウムが朝方で濃く、像の左端近くにはシヌス・メリディアニとマルガリティフェル・シヌスの北端の痕跡が覗える。北極冠部の周りは白いボケ。

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11 August 2014 (λ=176°Ls~177°Ls,  δ=7.5")

        EMr氏がω=000°Wでワンセット。シヌス・サバエウスは割と明瞭で、左端近くのシュルティス・マイヨルも見えており、マレ・アキダリウムも朝方に見える。北極冠は明白ではないが、Rでは北極冠域からマレ・アキダリウムの北側に明るさが見える。GBでは見えない。RGBでは全體白霧が擴がっている様に見えるが、マレ・アキダリウムの左側にはやや褐色の地域が見える。

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        Maurice VALIMBERTI (MVl)氏がω=123°WRGBIRRGB像を与えた。MVl氏には七月の観測がなく5 June以来の久々の観測。南端は暈けた白さがあるが、RIRで痕跡がないので、南極冠が見えるとは言い難い。左側にはニロケラスからソリス・ラクスに掛けて陰影が見えている

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12 August 2014 (λ=177°Ls,  δ=7.5"~7.4")

       DPk氏がω=352°Wでワンセット。シヌス・サバエウスとシヌス・メリディアニが完全な範囲でシュルティス・マイヨルが左端近くに濃い。シヌス・サバエウスからマレ・セルペンティスを経由してヘッレスポントゥスが濃く走っていてその左端寄りにはヘッラスがあると思われるが、白くない。但し、南端は白く南極冠が支配していると思われる。北端の北極冠は邊りは白いが曖昧で、特に朝方は白霧が覆っている。ただ、R像には北極冠らしいものが見えているに思える。但し、λ=180°Lsに近いからそろそろ陰に入る様に思う。

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14 August 2014 (λ=178°Ls,  δ=7.4")

        MVl氏がω=092°Wω=098°WIR像を含む二セットの像を得た。兩像共にソリス・ラクスの邊り、アガトダエモン、ティトニウス・ラクスの邊りは手応えがあり、オピル-カンドルは明るい。これらはRGBではRの影響だが、IR像でははっきりする。マレ・アキダリウムも左端近くで好く見えている。 その北は雲霧がある如く、やや白っぽく北極域の雲霧と繋がっているが、北極冠は最早見えない感じ。南端にも明るい層があるが、見極めが出來ない。

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        FMl氏がω=316°Wでカラー単像。シュルティス・マイヨルが濃く見え、その前方が白霧。南端も些し白い。

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15 August 2014 (λ=178°~179°Ls,  δ=7.4"~7.3")

       MVl氏が引き続きω=090°W ω=095°Wで同じセットを撮った。同じくソリス・ラクスからアウロラエ・シヌスまで好く出ていて、オピル-カンドルは明るい。マレ・アキダリウムも横たわって左端近くに見えている。南端はやや明るい。北端部Bでやや白いがRIRでは少しも明るくない。20分後には像が可成り悪化しているので低くなったのであろう。

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17 August 2014 (λ=180°Ls,  δ=7.3")

       Yukio MORITA (Mo)氏が ω=094°Wでいつもの一式を与えた。いよいよλ=180°Lsで、北極冠の半分は見えない事になった。LRGBRGB像では縁處理が悪くあれているが、Rではソリス・ラクスからティトニウス、アウロラエ・シヌス、マルガリティフェル・シヌスの北部などが見えている。オピル-カンドルは明るい。ニロケラスからマレ・アキダリウムも幾らか詳細が見える。Bでは北極部と南端の朝方がやや明るい。

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18 August 2014 (λ=180°Ls~181°Ls,  δ=7.3"~7.2")

        FMl氏がω=278°Wでカラー単像とカラー分解像。しかし、こうした分解像のBは意味がない。シュルティス・マイヨルがバリバリに出てしまっている。

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21 August 2014 (λ=182°Ls,  δ=7.2"~7.1")

        MVl氏がω=033°WIR像込みのワンセット。Rではシヌス・メリディアニが左端で明確で、オクシア・パルスが濃い。オクスス運河が好く出ている。Bでは北極起源の雲が明らかでマレ・アキダリウムの北部に及んでいるのがRGBで見える。マレ・アキダリウムは縞模様。南端の薄い明るい層も明白である。良像である。

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22 August 2014 (λ=182°Ls~183°Ls,  δ=7.1")

        引き続きMVl氏がω=014°Wで昨日と同じセット。アリュンの爪は可成り中に殘っている。前日と同じく良像で、オクシア・パルスの西側に黄塵か、明點(RでもIRでも)。マレ・アキダリウムに食い込む北の雲は前日と位置を変え東寄りである。B像では可成り顕著に見えている。

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24 August 2014 (λ=184°Ls,  δ=7.1"~7.0")

          FMl氏がω=217°Wでカラー単像。北端が明るい。

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25 August 2014 (λ=184°Ls~185°Ls,  δ=7.0")

          MVl氏が ω=339°Wω=346°Wで二セット(前者では+IR)。シュルティス・マイヨルが可成り中に入ってきた。前者ではIR像でもシヌス・サバエウスはヘッレスポントゥスに直結している。ヘッラス部はRでは明るいがBでは然程でない。廿分後の像は劣化。

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26 August 2014 (λ=185°Ls,  δ=7.0")

           MVl氏がω=333°WIR像附きワンセット。時刻は前日の第一像と第二像の中間ぐらい。シュルティス・マイヨルが更に中に入ってきたが、視相は前日より劣る。IR像ではヘッレスポントゥスがデプレッシオネス・ヘッレスポンチカエまで伸びているよう。これは通常の濃度を持つので、南極冠の北限は少なくとも65°S邊りまで後退したか。

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27 August 2014 (λ=185°Ls~186°Ls,  δ=7.0"~6.9")

           MVl氏がω=324°WIR像附きワンセット。シュルティス・マイヨルは更に中に入ってきて、全貌が見える。ヘッラスは中に入った印象はないが、ヘッラスの北西端から黄塵らしいものが些しはみ出している。これはIRでも覗える。ヘッラスはλ=160°Ls邊りから氷が溶け、地肌が出ているはずであるから、砂塵は舞うはずである。但しヘッラスの底は氣壓が高いから、そう容易くは外に出てこない。然し、周邊部では砂塵が舞うであろう。季節は2001年の場合、レアなケースだが、λ=184°Ls (24 June 2001)にヘスペリアに黄雲が発生し大黄雲になったので、この邊りに注目したのは正解である。なお、MRO-MARCIのこの時期の画像は破れ提灯で、どうしようもない。

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28 August 2014 (λ=186°Ls,  δ=6.9")

            MVl氏はこの日ω=312°Wω=320°WIR像込みで二セットを撮った。 ω=312°Wの像は秀逸で、ヘッラス北西端から浸みだした黄塵が前日より些し大きく再発生していることが好く出ている。ヤオニス・レギオの邊りで規模も似ている。RIRだけでなく、Bでもその痕跡があるようだ。30分後の画像にも覗えるが、像は劣化した。

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             FMl氏がω=177°Wでカラー単像。まだ陰影は覗える。

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29 August 2014 (λ=186°Ls~187°Ls,  δ=6.9")

             MVl氏はω=302°Wω=307°Wで撮像。砂塵はより明確になったが、マレ・セルペンティスを侵してはいなくて、以前局所的である。シーイングも好く、シュルティス・マイヨルの北側の微細も出ている。今回は第二像も好い。 北極部は靄っぽい。

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30 August 2014 (λ=187°Ls~188°Ls,  δ=6.9")

             MVl氏がω=296°Wω=304°Wでチェックした。後者は前日のω=302°Wに近い。黄塵は然程の動きはないようだ。拡散が起こっているかもしれない。像としてはω=296°Wが締まっている。黄塵の形を見るにはIRが好いかもしれないが、IRでまだマレ・セルペンティスが侵されていない風だ。(尚九月に入ってもVMl氏は追っているが、4 Septまで天候が悪かったのか、缺測になって当該箇所は見えなくなっている。)

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