2013/2014
CMO/ISMO 観測レポート#05
2014年一月の火星観測 (λ=070°Ls~084°Ls)
CMO
#419 (
♂・・・・・今期五回目のレポートで、2014年一月中の観測報告をレビューする。この期間、火星は「おとめ座」を順行してスピカの北へ近づき、赤緯が下がり月末には視赤緯は06°30'Sになった。南中は午前五時台となり、夜半過ぎには観測が出来るようになったが、厳冬期のこともあり、北半球の観測は捗らない。季節が反対の南半球の豪州からは、南中高度が上がったこともあり複数の方からコンスタントに報告が届いている。この期間に火星の季節λは070°Lsから084°Lsへ進み、北半球の夏至直前となった。視直径δは6.9"から8.9"になり眼視観測にも十分な大きさになっている。位相角ιは36°から34°とまだ夕方の欠けは大きかった。傾きφは23°N台から21°N台と変化したが、まだ北極域が此方を向いていた。位相角ιは35°から36°、傾きφは25°N台から23°N台とそれぞれ変化している。
♂・・・・・この期間には以下の諸氏から報告を拝受した。
レオ・アールツ (LAt) ベルギー
1 Colour
+ 1 R Images (
スティーファン・ブダ (SBd) メルボルン、オーストラリア
2 Sets of RGB
+ 1 Colour Images (7, 12,
40cm
Dall-Kirkham with a DMK21AU04
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
1 Set of RGB Images
(
近内 令一 (Kn) 石川町、福島県
1
Drawing (
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
4 Sets of LRGB Images
(9, 17, 22,
森田 行雄 (Mo) 廿日市、広島県
10 Sets of RGB + 10 LRGB Colour + 10 L Images (1, 2, 6, 12, 22,~24,
36cm SCT with a Flea3
ドナルド・パーカー (DPk) フロリダ、アメリカ合衆国
2 Sets of RGB
+ 1 IR Images (6,
ジャン=ジャック・プーポー (JPp) エソンヌ、フランス
1 Set of RGB
Images (
クリス・スメト(KSm) ベルギー
1 Drawing (
ジョン・スーセンバッハ (JSb) ホウテン・オランダ
1 Colour
Image (
モーリス・ヴァリムベルティ(MVl) メルボルン、オーストラリア
1 Set of RGB Images (
アンソニー・ウエズレイ(AWs) ニューサウスウエールズ、オーストラリア
2 Colour
+ 2 IR Images (25, 26, 28,
(37cm spec with a Point Gray Grasshopper
Express)
♂・・・・・ 今回は一月1日から一ヶ月順に日を追って見てゆくが、観測者毎にレビューを並べる。
Y MORITA (Mo)氏: 一月中、勤勉に観測をこなして頂いたが、肝心のシーイングには恵まれなかったようで、気の毒であった。年明け最初の觀測で、1 Jan 2014
(λ=071°Ls)はω=158°W、 ω=165°W、 ω=173°W と三回頑張ったが、北極冠の描冩はどれも境界が定まらなく、大きく見える。ω=173°Wが最も好いと思うが、もともと模様の少ないところで、見極めが難しい。R像やL像ではエリュシウムあたりが大きくやや明るいと思うが、Bでは特徴がない。2 Jan 2014
(λ=071°Ls)はω=185°Wでの撮像、しかし前日と同じで、北極冠の描冩は好くない。6 Jan(λ=073°Ls)にはω=134°W。Bで夕端に膨らみがある様で霧が出ているか。12 Jan(λ=075°Ls)はω=084°Wで観測、北極冠すら描冩が出ていない。ソリス・ラクスやマレ・アキダリウムも明確ではないが、クリュセ起源の夕霧は可成り朝方まで続いているように見える。22 Jan(λ=080°Ls)は ω=357°Wで撮像、氣流状態は回復していないと思われるが、その割にR像は秀逸で、シヌス・メリディアニの二本の爪やオクススの描冩、マレ・アキダリウムの内部など可成り詳細が出ている。オクシア・パルスも明確でその西には黄塵溜まりがあるかも知れない。北極冠は円く小さくなり全体像の内部に入っている。なお、南端はBでも特徴がない。これは一月中続く。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140122/Mo22Jan14.jpg
23 Jan(λ=080°Ls)は Mo氏はω=344°Wでの撮像だが、前日より悪くなった。但し、アラムの切れているのは見て取れる。24 Jan
(λ=081°Ls)はω=329°Wで撮像、シヌス・サバエウスなどの存在は判るが、これといったことは何も冩っていない。31 Jan
(λ=084°Ls)にはω=258°Wで撮像。δは月末8.8"となった。シュルティス・マイヨルが朝方で、エリュシウムの雲が夕暮れ近くに見えている構図だが、まだシーイングは十分でない。エリュシウムの雲はBでは顕著ではなく、GないしL像に助けられている。北極冠の描冩も十分ではない。小さくなった本体を窺うことは出來るが、南側の惚けが締まらない。ノドュス・アルキュオニウスがRできちんと出ることを期待したい。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140131/Mo31Jan14.jpg
Don PARKER
(DPk)氏:DPk氏の最初の觀測は6 Jan(λ=073°Ls)でω=331°Wの一群の像である。9hGMT頃の観測で、日本のMo氏の観測は20hGMTころである。このDPk像は良像で、シヌス・サバエウスとシヌス・メリディアニが魅力的である。シヌス・メリディアニから北西に走るブランガエナ運河が見えるようだが、その西南はアラムの中でもより明るい。エドムはそれほどでない。オクススとマレ・アキダリウムの間は通常通り明るい。アエリアは霧で明るいが、これは夕端に出來た霧で、シュルティス・マイヨルをまたいでいる。北極冠の本体は小さく見えている。 その南側には可成り濃い霧が出ているように見える。マレ・アキダリウムは朝方だが、朝霧で半分覆われており、これはクリュセに擴がる。タナイスが濃いか。南端は未だ無表情。夕端ではプロトニルスとその北の描冩に注目。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140106/DPk06Jan14.jpg
14 Jan
(λ=076°Ls)には ω=248°Wで撮像。シュルティス・マイヨルは朝方に全体が大きく出ているが、やや淡く、アエリアから朝霧にやや覆われていて、色の鮮明度は落ちている。マレ・キムメリウムの西北端は可成りの描冩。ノドゥス・アルキュオニウスが孤立點として見える。ウトピアもやや淡いが大きく描冩されている。内部に砂塵があるかも知れない。ヘッラスが白くなっている。Bで好く出ていてRでは淡い。 エリュシウムは夕方で白い固まり。これもBで出ていて、夕雲である。北極冠域は廣く明るいが、本体は北半分で、南側に砂塵混じりの白雲が出ているようである。カラー合成ではやや黄色みを帯びているが、根幹は砂塵混じりの水蒸氣に塗れたオリュムピアで、北極冠との間にリマ・ボレアリスが覗える。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140114/DPk14Jan14.jpg
Stefan BUDA (SBd)氏: SBd氏は7 Jan (λ=073°Ls)
ω=103°Wが今年最初で、北極冠は締まって小さく見える。B像は添付されていないが、アルバに明斑。アスクラエウス雲が見えるようだ。タルシスにも局所雲があるように見える。ソリス・ラクスは巧く描冩されていなない。次は12 Jan
(λ=075°Ls)ω=054°W、暗色模様についてはRでより明確で、ソリス・ラクスがマレ・エリュトゥラエウムとくっついたように表現され、ティトニウス・ラクスの外壁が綺麗に出ているほか、ニロケラスの二股、マレ・アキダリウムの西北部の濃い三角形模様の描冩が良好で、北極冠にくっついたヒュペルボレウス・ラクスが分離して明確である。但し、朝方縁近くの線はゴーストであろう。強調されすぎて出たゴーストだと思うが、Bにも出ている。Bは少し模様が出過ぎかも知れない。25 Jan
(λ=081°Ls) には ω=299°Wである(この日はメルボルン邊りは好く晴れたのか、後述の様に澳大利亞で三人揃い踏みである)。B像にはヘッラスに白雲が存在するようで、これはRGB像にも覗える。ヘッラスの西詰めには濃い模様がある。北極冠域でも好い写りで、オリュムピアの名残が見え、そこから雲状の尾が西方に伸びているように見える。2012年にも見られた光景である(例えばPGc氏の7Mar2012ω=277°Wの像)。暗色模様ではシヌス・メリディアニの二本爪がごく朝方に出ているほか、ノドゥス・アルキュオニウスも含めてウトピア附近からマレ・アキダリウムの北部へのRでの描冩は馴染みのものである。はやシヌス・サバエウスの東部の北の砂漠の中に、いつもの斑点が冩っている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140125/SBd25Jan14.jpg
R KONNAI (Kn)氏:今期四枚目のスケッチを7 Jan
(λ=073°Ls)19:45GMT (ω=120°W)に行った。場所柄、顕著な模様は見えないが、南端の朝方にやや濃い模様が見える。夕霧がterminator近くにたまっている。北極冠は境界がはっきりしない。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140107/Kn07Jan14.jpg
J-J POUPEAU (JPp)氏:フランスでは8hGMTが頃合いのようで、JPp氏は8 Jan (λ=073°Ls)
ω=289°Wで撮像、シュルティス・マイヨルが見え、シヌス・サバエウスも東端部に見える。Rでウトピア邊りの暗部が濃い。南端にヘッラスが見えるようで、Rでは明るいが、 Bでははっきりしない。Gでは北極冠が明るいが、ヘッラス方面は然程ではない。北極冠の境界は不鮮明。Bではアエリアは然程ではない。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140108/JPp08Jan14.jpg
E MORALES (EMr)氏:EMr氏は9 Jan (λ=074°Ls)
ω=326°Wで観測。RGBではシヌス・メリディアニなどぼやけているが、LRGBではL像の所爲でシヌス・メリディアニの二股も冩っている。オクシア・パルスなど出ている。アラムも切れている。アエリアの描写が足りないと思う。北極冠域も明るいが、本体が判らない:
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140109/EMr09Jan14.jpg
EMr氏は17 Jan
(λ=077°Ls) ω=248°Wでも観測、14JanのDPk氏と全く同じ角度。DPk像と比べてクオリティや鮮鋭度は落ちる。L像ではシュルティス・マイヨルなどは出ているものの、他では 北極冠も含めて描写が悪い。エリュシウムの雲などはBでも出ていない、かえってLやGで痕跡がある。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140117/EMr17Jan14.jpg
22 Jan (λ=080°Ls)にはω=189°W。エリュシウムが朝方に來て、Rで明るく、Bでも弱いが出ている。アエテリアの暗斑の他、プロポンティスIも出ている。北極冠は小さく見え、オリュムピアあたりは雲のように暈けている。南ではRやLでマレ・キムメリウムの全体像が出ている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140122/EMr22Jan14.jpg
月末31 Jan
(λ=084°Ls)にはω=104°Wで撮る。ソリス・ラクスが見えていると思うが、定かではない。北極冠も本体は判るが、カッチリとはしない。顕著なのはクリュセ起源の夕霧が可成り伸びて朝方まで達していることで、濃淡も出ている。B像にはアスクラエウス雲が出ているとおもわれる。アルバも痕跡がある。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140131/EMr31Jan14.jpg
K SMET (KSm)氏:12 January 2014
(λ=075°Ls)ω=243°Wでカラー スケッチ。シュルティス・マイヨルが朝方に見え、ウトピアを三角形で描く。北極冠が好く見え 朝縁の様子もうまく描冩しているが、カラフルではない。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140112/KSm12Jan14.jpg
E GRAFTON (EGf)氏:18 Jan
(λ=078°Ls) at ω=259°W: DPk14JanやEMr17Janに比べて10度進んでいるが、 同じ図柄である。この人の特徴だが、暗色模様はコントラストが高い。DPk氏に比べてシュルティス・マイヨルは濃く、東岸の詳細(飛び出し)が出ている。エリュシウムの雲が可成り沈んでいる。ノドゥス・アルキュオニウスは濃く描冩。北極冠の本体は割と小さく南側の 黄色味を帯びた白雲はオリュムピア雪片も含めて 可成り幅広い。リマ・ボレアリスは出ている。アエリアの朝霧はG, Bで出ている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140118/EGf18Jan14.jpg
Leo AERTS (LAt)氏:24 Jan
(λ=080°Ls) at ω=109°Wで撮った。多分ソリス・ラクスの沈んだところだろうが、 北極冠とそれを取り巻く暗部以外は場所柄デリケートである。アルバが出ていると思うが、その南を東西に走る霧帶が冩っている。クサンテから始まり、その西方では、多分その中にアスクラエウス雲が出ていると思う。ということはウリュッセス暗帯などが出ていると思われる。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140124/LAt24Jan14.jpg
M VALIMBERTI (MVl)氏: 25 Jan
(λ=081°Ls)ω=276°Wで撮像、MVl氏はお馴染みだが、今期初めての登場である。 シュルティス・マイヨルがド真ん中で、朝方にシヌス・サバエウスが濃く垂れ下がっているのが綺麗であるが、ウトピア邊りは、一通りという感じで、ノドゥス・アルキュオニウスも淡い。北極冠域ではオリュムピアが夕方に出ている。ヘッラスはBでも北極冠に比べて淡い。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140125/MVl25Jan14.jpg
A WESLEY (AWs)氏: 同じく25 Jan (λ=081°Ls)ω=293°Wで観測、 矢張り初登場で、MVl氏の一時間後の觀測である。IR像だけである。シヌス・サバエウスは全部出て居る。オリュムピアは裏に回ったようで、北極冠域は小さくなった。細かいディテールが出ているが、朝方に條状のゴーストが出ている。ヘッラスの邊りは興味があるが、明るさはなく、B光はない。 なお、シヌス・サバエウスの北方の様子やウトピアからマレ・アキダリウム北部に掛けての様子は、先にSBd氏の處で述べた様子に一致する。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140125/AWs25Jan14.jpg
26 Jan (λ=081°Ls)にはω=267°Wで撮像、前日と比べて、少し30度近くずれているので、アエテリアの暗斑が見えている。ウトピアの暗部の描冩は好く、北極冠に隣接する暗部は 可成り顕著で、リマ・ボレアリスと同緯度のものと思われるが、アントニアディの図では呼称がないと思う。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140126/AWs26Jan14.jpg
28 Jan (λ=082°Ls)には ω=253°W。カラーになったが、具体的には情報がない。シュルティス・マイヨルは朝方に寄って、エリュシウムが白く夕縁に見えている。ヘッラスもやや白く見える。北極冠の東南にオリュムピアの残滓が見えているようだ。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140128/AWs28Jan14.jpg
30 Jan (λ=083°Ls) には更にAWs氏は ω=234°Wで撮像。白雲のエリュシウムが可成り入ってきた。先方の夕端には弱い霧が出ているように見える。シュルティス・マイヨルは朝縁近くになった。ヘスペリアも見えているが、ヘッラスはこの角度ではおぼろげ。北極冠の南にはリマ・ボレアリスがあるはずだが、少し弱く、オリュムピアの邊りは白く暈けている。ウトピアの濃淡は悩ましい。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140130/AWs30Jan14.jpg
J SUSSENBACH (JSb)氏: 28 Jan (λ=082°Ls) at ω=060°W。カラー一枚物で、カラフルではないが、ソリス・ラクスが出ており、オピール・カンドールは明るい。ニロケラスは二本爪が見えているようである。マレ・アキダリウムは夕方に擴がるが、その北部の描冩はもっと情報がほしい。一寸何かありそう。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/140128/JSb28Jan14.jpg
(村上 昌己/南 政 次)
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