Forthcoming 13/14 Mars (1)

2013/2014年の火星

村上 昌己

CMO/ISMO #413 (25 August 2013)

 

この項は『天界』20139月号に載った「火星課だより」を若干添削したものです。


English


来春2014414日に火星は視直径が15秒角に達する小接近を「おとめ座」で迎えます。本年20139月には視直径が4秒角をこえて、CCDカメラでは暗色模様が捉えられるようになり、観測シーズンがいよいよスタートします。本稿では、この接近の様子の概略と観測ポイントを紹介して火星観測の取っ掛かりの一助となればと考えています。13/14年期は観測期間を通して火星の北半球が見えていて、北半球をじっくり観測出来る接近シリーズ最後のチャンスとなります。


 


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今回の接近の様子・・・・・・・・・・・・・・


1には13/14年期接近の火星の軌道図を米英暦The Astronomical Almanac 2013および2014の数値を基に示します。λは火星の季節を意味し、火星から見た太陽の黄経Lsで示しています。「西矩」の日時はAlmanacでは明かでありませんが、12月初めには日の出時に南中をするようになっています。「留」は201431日のことで、以後は逆行に移ります。「対衝」は4821h(TD)におき、「最接近」は41413h(TD)のことで、メーウスの接近表によると最接近距離は0.61756AU、最大視直径は15.16”に達する接近です。

 


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再び「留」となるのは521日のことで、この接近している期間は「おとめ座」で図2のようにループを描いて運動して、スビカの北を都合三回通過します(128日、331日、712)。順行に移ってから「東矩」となるのは615日頃で、日没時には既に南中しているようになります。以後は視赤緯も下がり西空に低くなって行きます。


 

星座間の動き・・・・・・・・・・・・・・・


3に星座間の運行図を示します。20139月には「かに座」にあって、日の出時の地平高度も30度を越えてきます。99日ころにはプレセペ星団の中を通過していきます。1014日にはレグルスの北に接近して、「しし座」を順行して、12月初めには「おとめ座」に入り夜半過ぎには東の空に現れるようになります。2014年初の視直径はδ=6.8”ですが、以後は接近してきて、2月初めにはδ=8.8”3月初めにはδ=11.5”と大きくなってきます。そのまま「おとめ座」で図2に示したようにループを描き接近してきます。


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接近後の順行では、76日に火星食がありますが、ハワイから南米北部にかけての現象で、日本からは見ることが出来ません。827日には「てんびん座」で土星と接近して、9月末には「さそり座」でアンタレスと赤みを競うこととなります。

1019日には、サイディング・スプリング彗星(C/2013 A1)が火星にかなり接近する事が予報されています。日本からは最接近時刻の前が観測可能です。欧州方面が最接近時の観測ができる地域になります。

11月になると「いて座」に入り赤緯も低く西空で観測は難しくなると思われます。2014年末には、まだ夕方の「やぎ座」にあって、視直径はδ=4.8”まで小さくなっています。


 

視直径の変化・・・・・・・・・・・・・・・


4に今回の接近の視直径の変化を図示します。視直径δ=10”を超える期間は、火星の季節(λ)で北半球の夏至近くの215(λ=089°Ls)から622(λ=150°Ls)の四ヶ月ほどで、δ=14”を超える最接近の期間は、324(λ=107°Ls)から58(λ=127°Ls)40日間となります。

ここで、視直径(δ)と視赤緯(D )の半月ごとの値を示します、視赤緯は南中高度の高さをあらわし、昇ってくる様子も示してくれます。

2013       δ         D

2014         δ        D

2014          δ         D

2014        δ         D

Sept 01    4.1"    +20°34'

Sept 15    4.2"    +18°27'

Oct 01     4.4"    +15°37'

Oct 15     4.6"    +12°53'

Nov 01    4.9"    +09°22'

Nov 15    5.2"    +06°25'

Dec 01    5.6"    +03°07'

Dec 15    6.1"    +00°23'

Jan 01    6.8"   -02°36'

Jan 15    7.7"   -04 42

Feb 01    8.8"   -06 38'

Feb 15   10.1"   -07 38'

Mar 01   11.6"   -07 58'

Mar 15   13.2"   -07 32'

Apr 01   14.7"   -06 02'

Apr 15    15.2"   -04 26'

May 01    14.5"   -03 02

May 15    13.6"   -02 44'

June 01   11.8"   -03 36

June 15   10.5"   -05 11'

July 01     9.3"   -07 39'

July 15     8.7"   -10 11'

Aug 01     7.9"   -13 31

Aug 15     7.4"   -16 18'

Sept 01    6.8"   -19 27'

Sept 15    6.4"   -21 42

Oct 01     6.1"   -23 40'

Oct 15     5.8"   -24 41'

Nov 01     5.5"   -24 53'

Nov 15     5.3"   -24 05'

Dec 01     5.1"   -22 08'

Dec 15     5.0"   -19 34

 

前後の接近と比較してみると、図4のようになり、λ=095°Ls (227)からλ=134°Ls (522)までの期間が前後の接近より大きな視直径で観測出来る期間となります。火星の観測は季節の変化に視点を置いて観測してゆくわけですから、前接近期の観測は、13/14年期接近の予習となるわけです。また、今回の季節(λ)を同様な視直径で観測出来たのは1999年の接近で、最接近は51日、最大視直径はδ=16.1“でした。並べて比較できる観測の間隔が大きいことがあり、火星観測には長期にわたる各接近の継続した観測が大切になるわけです。



4

 

今期の観測目標・・・・・・・・・・・・・・


 すでに述べたように今期はλ=090°Lsからλ=150°Lsの観測が視直径の大きな期間です。この間には火星面中央緯度(φ)19°Nから25°Nの間を変化して、大きく北半球が地球を向いています。λ= 090°Lsが火星北半球の夏至ですから、北極地の夏の様子を観測できるチャンスとなります。

この季節の観測ポイントをいくつか示しておきましょう。

1) 北極冠と周辺の様子 ボームのプラトーの観測期は、視直径の小さい2013年末までのことで、変化が捉えられるか難しいと思います。しかし、残留北極冠と周辺に融け残るオリュムピア雪原などの様子はつぶさに捉えられるでしょう。前接近でたびたび見られた北極冠内の黄塵の発生も要注意です。

2) 高山の山岳雲の様子: オリュムプス・モンス、タルシス三山、エリュシウムなど午後の山岳雲の活動の様子も興味を惹きます。夕縁が深く見える「衝」前が好期です。また南半球に位置して、活動期のずれるアルシア・モンスのふるまいを観察できるチャンスとなります。朝方に見られた低い朝靄の上に飛び出した山頂の暗点は赤道帯霧の弱まりで見え難くなります。

3) 北極域の渦巻き型の朝靄: 1999年にはマレ・アキダリウムの朝方に明るい低気圧の渦状の朝靄が見られました。ウトピア付近も注意です。

4) 赤道帯霧の消滅:夏至の頃 (λ= 090°Ls) には弱まって、朝霧、夕霧なども薄くなって、火星面の透明度がよくなります。

5) 朝夕のシュルティス・マイヨルの色彩・濃度の変化: 朝霧、夕霧の変化に伴う見え方の変化に注目してください。

6) 明るくなるヘッラスの様子: 傾きが大きく南縁に見え難いのですが、冬の南半球では、南極雲の下では極冠が発達しています。ヘッラスが降霜で白く輝いてくるのもこの時期のこととなります。

7) ターミネータからの飛び出し: 衝のあとで朝方のターミネータから突出する奇妙な明部がたびたび観測されています。残留磁場強度の高い南半球のエリダニア付近が発生場所になることが多く、太陽風との関係も推測されており、注意深い観測が必要となります。


 

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・


いつも述べていることですが、連日、同じ時刻に複数回観測をする40分インターバル観測法によって中央経度(ω)を揃えて、並べて比較して変化を確認できる観測を得ることが肝要です。CCDカメラによる撮影では20分インターバルも可能です。是非挑戦してみてください。

観測報告は以下のメールアドレスにお願いします。同じ観測日のものはJPEG画像で一枚にまとめてください。火星課ホームページ・ギャラリーのこれまでの森田行雄氏の画像が参考になります。カラー合成画像だけでなく、必ずRGB単色光画像を並べてください。特にB光画像は赤外光漏れのない様にフィルターの選択が大切です。またデータの記入漏れがないか等にも御注意ください。

報告先 : cmo@mars.dti.ne.jp と、同時に vzv03210@nifty.com

 

なお、『火星通信』ホームページは京都大学付属天文台の御厚意により、飛騨天文台のサーバーを使わせていただいていましたが、今年7月よりは花山天文台のサーバーに移動いたしました。従来通りのものでも当分の間はリンクしてつながりますが、下記の新しいURLをお使いください。


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1999年接近や前回の接近の様子は下記のインデックスページから参照できます

火星課ホームページ和文ポータルサイト(ファサード : 入口ページ)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/oaa_mars.html

火星課ホームページ和文インデックス:

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/S3_J_index.htm

こちらで、『火星通信』389号から2011/2012CMO/ISMO 観測レポートが、

また399号からは、2011/2012CMO/ISMOノートが参照できます。

 

1998/99 CMO火星観測ノート:

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/1998_99CMONote.htm

1999 CMO火星観測報告目次:

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/1999CMOReportIndexj.htm

 

以下は前接近の観測ポイントを示したものです。今接近の前半に相当します。

2011/2012年の火星(そのI)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/384/2012Mars_384.htm

2011/2012年の火星(そのII)

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/395_MNN.htm

 


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