ISMO 2011/2012 Mars Note #15
北半球初夏のプレ北極域渦状白雲
近内令一譯
2012年5月下旬、火星が地球から遠ざかりつつあった頃、何人かの観測者がMare
Boreum上空の興味深い白斑を画像に捉えた。それらに注目したのは、この時期が北半球の初夏であり、今や名高い北極域渦状白雲の画像を1999年にHST (ハッブル宇宙望遠鏡)
がまさしく同じ場所に捉えたのと同じ季節に当たることを筆者が知っていたからである。
図1:有名な“Polar
Cyclone” 1999年4月27日
(λ=130°Ls) HSTによる画像
I ― アマチュアによる渦状白雲の観測
この観測期、渦状白雲は阿久津富夫によって2012年5月26日
(λ=116°Ls ) に初めて明確に撮像され、続いてDamian
PEACHによって27日、28日及び30日に捉えられ、さらにMarc
DELCROIXも28日にキャッチしている。これらの画像を続けて眺めると、渦状雲は位置を全く変えていないように見える;しかしこれで、同一の雲が残留して毎日見えているとは結論し難い。
地上からのこれらの画像には渦や“目”のような独特な形態は全く示されていない。これは画像の解像度が低過ぎるからかもしれないし、また渦の形がが眼に見えて発達していなかったからかもしれない。十分に発達した渦巻き構造の例はλ=120°〜130°Lsの期間 (ほとんど北半球の盛夏)
に限定して見られるものかもしれない。そして2012年観測期の火星上のこのシーズンには火星は地球から遠ざかりつつあり、地上からの観測の好期からはずれていた。
図2:地球上の観測者によって記録された2012年の北極地域の白雲
しかしながらAshima Mars Climate Center
のウェブサイトを閲覧すると、北極域の白雲はλ=110°〜120°Lsあたりで形成を開始するように見えるが、この時期には渦の形に十分発達し切れないようである。2012年の5月下旬にアマチュアによって捉えられた白雲はまさしくこのカテゴリーに入るものだろう。おそらくλ=130°Lsあたりの時期に限って渦形成の度合いが十分強まって、典型的なサイクロン様の外観の白雲が形成されるものと思われる。
II ― “Polar Cyclones”?
“Polar Cyclone”(極地域のサイクロン)という表現がしばしば、1999年にHSTによって観測された渦状白雲を記述する際に使われてきた。ここで一般的な総称として理解しておくべきは、気象学においてはcycloneという呼称は、ありとあらゆる種類の低気圧システムを包括し得るという点である。しかしながらこのcycloneという言葉は単独で、気象学的に際立った現象である熱帯低気圧を指し示して使われることも珍しくない(サイクロン、ハリケーン、台風等呼称は異なっても実態は同じ)。しかしながら、我々が観測する火星の“Polar
Cyclone”は外見的に類似した特徴的な“目”を有するものの、地球上の極めて強烈な暴風雨を伴う熱帯低気圧とは比較にならないほど弱く、嵐に特有な雷雨活動のような現象も見られない(また火星の“cyclone”の“目”は、地球の熱帯低気圧に典型的に見られる目を囲む積乱雲の巨大な壁も伴わないに違いない)。そして現在の火星に大洋は存在しない:従って、地球上で熱帯低気圧の発生に大きく関与する温かくて湿った熱帯の海洋性空気は火星にはあり得ない。ということで、正確に話をするつもりであれば“渦状雲”という表現を用いるのが公平であろう。
1999年に見られたのと同様な北極域渦状白雲の捜索は、来たる2014年の遠日点期接近期のハイライトの一つとなるだろう。この接近期は渦状雲の活動期を実に具合好くカヴァーしていて、λ=130°Lsの季節には2014年5月12日に到達し、視直径は13.7″角もあって、2012年観測期の最大視直径に匹敵する。これに相当する火星接近の15年サイクルパターンでの前回の遠日点接近期は1999年観測期であり、この時にはAntonio
CIDADAOや、カザフスタンのAlma-Ata天文台のチームがともに4月28日に渦状白雲を撮像しているが、当時の画像の解像度では白雲の渦模様も目も判別できない(譯者註)。 2014年観測期には我々の誰かが白雲の渦状構造や目を見事に捉えるだろう。
譯者註:探査機やHSTによる火星のこの季節の北極域の“cyclone”の記録や、白雲の地上からの観測については、一回り前の遠日点接近期でのレポートがCMO等にいくつも見られる。眼視観測者の何人かはcycloneの“目”を1999年に検出していたかもしれない。下記等参照:
✱ 北極地での颱風 CMO #184 (10 February
1997)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/184/cmo184.html#cm6j
✱1998/99
CMO Mars Report #10 1999年四月後半(16 April〜31 April)の火星面觀測 CMO #217 (10 May 1999)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/99Repo10j/index.htm
✱1998/99
CMO Mars Report #12 1999年五月後半(16 May〜31 May)の火星面觀測 CMO #219 (10 June 1999)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/sec98/12/9812j.html
✱1999年四月下旬のバルティア朝の白雲 1998/99 Mars CMO Note
- 03 - CMO #227 (25 January 2000)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/note/9903/03j.html
✱Hubble
Views Colossal Polar Cyclone on Mars
http://alpo-j.asahikawa-med.ac.jp/Mars9899/Report990524.htm