ISMO 2011/2012 Mars Note #14

赤黒い領域の青色光での様子

村上 昌己(Mk)・南 政 (Mn)


 

  2012年に相当する前回の接近は1997年であった。この時はω=100°Wあたりの光景が日本からはよく観察されて、幾つかの特徴的な事柄が記録された。これらの点を2012年の結果と比較してみようと思う。

 

  2012年の接近の十五年前、1997年は20 Mar 1997に最接近し、最大視直径は14.2”であった。この最接近期は日本ではシーイングが安定し、たとえばわれわれの内、Mnは福井・足羽山で三月後半の半月、(17~20, 22, 24, 25, 27, 28, 30, 31 Mar) 112枚のスケッチを得ている。400, 480×20cm屈折を使用している。

 

  この期の観測項目は幾つかあるが、特に目立ったのはω=100°W前後の場面で、このことを含む当時の記録は CMO No 188 (10 April 1997) Fortnight Report #10 に描かれている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/sec96/010/sec010j.html

 

 その中で、6) 赤い地域と赤黒い帯に注目しているが、当時好シーイングのもとでは表面の色彩が好く見えたことから得られたものである。Fig. 1に肉眼で捉えた範囲(総合光(Integrated Light))での模式的に色の違いを示してある(Fig.1は当時使用の図)

(英文は和文フォントで出る恐れがあるので、エンコードは日本語ではなく、西ヨーローッパ言語を選択されたい。)

 

 

 なお、この現象については、CMO #211 (25 January 1999) Mars Sketch (14)に於いて「濃紅領域:青色光でのソリス・ラクス、ニロケラス等」 というタイトルでMnが解題している。

 

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note14j.htm

 

 

 


  

ここでは特にHST30 March 1997の画像(後に発表された。Fig.2)に注目し、B光画像とR光画像の比較から

 1) マレ・アキダリウムの西のテムペからアルバを含む領域が、濃い独特の赤味を帯びて、B光では暗く映っていること:つまり暗色模様とは別に、また白雲の白さとは別に、肉眼では濃い赤色や珊瑚色に見える濃紅領域が區別されるのであるが、實はこれが菫色光では暗く写る部分なのであった。赤色光では明るくトンでしまう。

   2) 更にHSTの解像力でB光でのソリス・ラクスの形状がB光像とR光像では違っていることである。つまりB光でのソリス・ラクスは青くなければ、濃く写るはずであるが、その北部は明るく写っている。当時の記録では 「青色光の似非ソリス・ラクスは、實はソリス・ラクスの南側の濃紅部分が濃く冩り、北側は靄っている爲に、南に移って茄子型にそれらしく見えるものである。...實は肉眼の総合光による観察でも、青色光の似非ソリス・ラクスが観測される可能性が充分にあるということである。」

    「赤黒い領域は、色彩が明瞭であるようなシーイングの時は確かに赤黒いのであるが、並のシーイングでは寧ろ薄暗く見えている。しばしばガンゲスやデウテロニルスが暗帯として捉えられるのもその事に依る點は再三指摘した」とある通りである。

 

そこで、上の二点について、2012年ではどう観測されたか、調べてみる。画像の選定はMkが行った。

採用する画像は次のヨーロッパで得られた四画像が適当と考える。最初の比較図はRGB像によるもので(Fig. 3)、季節はλ=085°Ls~086°Ls1997年の場合より早いが、画像優先でこの季節になった。

 

  ここでMKdGlyfada-Athens, GREECE在住のManos KARDASIS (MKd) 氏のコードで、観測日時は17 March 2012 (λ=085°Ls, ι=12°) 21:17 GMT (ω=084°W, φ=22°N )、使用機は28cm SCT 、カメラは DMK21-618Astronomic filters使用)である。

 次の DTyは David TYLER(Flackwell Heath, Buckinghamshire, the UK在住)のコードで、観測日時は18 March 2012 (λ=085°Ls, ι=12°) 21:37 GMT (ω=080°W, φ=22°N )で、使用機は 36cm SCT、カメラは Point Grey Flea3 cameraである。

  DPcSelsey, West Sussex, the UKDamian PEACH氏を意味し、観測日時は同じく 18 March 2012 (λ=085°Ls, ι=12°) 22:01 GMT (ω=086°W, φ=22°N )。使用機は記載がないが 36cm SCTと思われる。

  最後にCPl Nantes, FRANCEChristophe PELLIER氏のコードで、19/20 March 2012 (λ=086°Ls, ι=13°) 22:06~00:29 GMT (ω=081°~112°W, φ=22°N )の画像集の中のω=088°Wでのものである。使用機は 25cm Spec, @f/32 カメラは PLA-Mx cameraである。

 


 

 先ず、Fig. 3RGB画像を示したが、次のFig.4はそのB光画像で、後者はこちらで若干強調処理を施してある。

 


 

 1997年に見られたマレ・アキダリウム西側での濃い赤みの色合いは表現されているように見えるし、短波長で薄暗くなる部分も再現していると思われる。テムペのところの白い雲塊も確認できる。尤も、テムペの白斑は微妙だが日々少々の違いがあるようで、17 Mar Mkd氏の画像では白斑の西部が南に曲がって張り出して、アルバ・パテラとの間に隙間があるように見える。18 Mar DTy, DPc 両氏の画像では、1997年のHST画像に似ていてコアがあるように見える。アルバ・パテラとの間は繋がっている。19 MarCPl 氏の画像では、コアが二つ並んでいる。此方もアルバ・パテラとの間は繋がっている、など。

 

 一方、ソリス・ラクスの2012年の様子については白霧の描写が弱く、微妙である。勿論、ソリス・ラクスはRGB像において明確だが、Bに特化した場合、Fig. 4の像は比較に十分耐える内容がまだ揃っていないと言える。つまり、青色光影像はまだまだもっと注意深く撮られなければならない。

 RGBには1997年のHST像に見られるような、白霧の拡がりは確認出來るが、B光像ではソリス・ラクスの北側に食い込んでいる様子の描写がワンランク落ちている。やはり、B光像の更なる進化が望まれる。もっとも、Bではソリス・ラクス北西への白雲の食い込みは描かれているので、当該時期には北側への流れ込みが弱かったのかも知れない。

 

  なお、Fig. 5として、Johan WARELL(JWr)氏の19 Marの画像を参考のため挙げておく。口径も小さく、シーイングも落ちるのかも知れないが、画像のサイズが、先の四像のようには揃えられない難がある。しかし、大まかには赤黒い領域や白霧の存在が確認できる。肉眼でも十分チェックできたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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