ISMO 2011/2012 Mars Note #12

 

2011/2012期の北極冠の縮小状況

 

南 政 次・西田 昭徳


   

れは毎度のことだが、南政次(Mn)の福井の足羽山天文台での観測に基づいて、Mnが計測し、西田昭徳(Ns)が計算し、図示するものである。これはまた前回のCMO #381 (25 Feb 2011)で扱った2009/2010年期の結果の続きである。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO381.pdf (Ser3-p0087)

 

今回Mn10 Sept 2011 (λ=359°Ls)から連続観測を開始し、ここに採用を始める観測は春分直後の24 Sept 2011 (λ=006°Ls)からである。開始の当時、視直徑δ5.1”にすぎなかった。このときはドーム内は15°Cほどあった。しかし、次第に冬季に向かい、寒さもさることながら、悪天候が続くようになり、観測がトンでしまうことが多く、北極冠の観測としては十分なものが得られないだろうという予感がしていた。案の定、福井は北国日和で肝心のλ=040°Lsのあたりでは13 Dec 2011 (λ=043°Ls)から31 Dec (λ=050°Ls)まで半月も観測がかなわなかったが、似たようなことは何度か起こっている。最終期でも、Mnが病気で観測が不可能となり、最後の詰めはできていない。辛うじてλ=100°Lsあたりのデータを拾うことができたが、後半のデータの少なさは如実である。

観測は40分ごとに行っているので、もし、同じLsの値が蓄積されれば、円グラフによって北極冠の俯瞰図が作れるはずであったが、連続して晴天になることはほとんどなく、従って円グラフの活用はまたの機会にする。実は晴れているときは、一夜に40分ごとの観測を連続して行っているから、得られるドット数も多いのであるが、以下の縮小図作成に際しては、多く重複する場合は統計的に代表的なものだけを採用した。

 

 さて、極冠の大きさを測定する方法は、CMOでは統一してオードゥアン・ドルフュス氏の方法(Icarus 18(1973)142)に依っていて、CMO #003 (25 Feb 1986)に紹介している。

 

 いま、ψを極冠の半角とし、φを火星の地球からみた中央緯度とすると、ψ

 

  ψ= - |φ| + arcos[1 – (d/r)]       (*)

 

で与えられる。ただし、2rが火星像の直径、は極冠の南北の厚み(depth)である。この方法では極冠の東西の幅(width)は考慮されないことに注意する。幅は位相角が大きいときなどには誤差をもたらすので、こちらのほうがよいと考えられる。いわゆる雪線Θ

 

   Θ= (π/2) – ψ

 

で与えられる。rdの測定はMnが担当し、上の式の解体と図示はNsがおこない、つぎのような図を得た。

 


    

ここで縦軸はψ、横軸は季節の進捗をLsの推移で表している。

 

なお、(*)式はψφのとき成り立つもので、ψφのときは 正確には(*)に替わって

 

  2sinφ·sinψ=d/r                       (**)

 

を使って、ψを求めなければならない。ψ=φ のとき 見かけは(*)(**)は違うが、一致することは簡単な演算でわかる。

今回、肉眼ではλ=067°Lsあたりから、北極冠がディスクの中に入ってきたと判断されたし、λ=085°Lsからは確実であったが、ψφは計算上λ=040°Ls直後から起こっていたと考えられるので、(*)に続き(**)も使って図に示してある。

この縮小図によれば、λ=030°Lsあたりまでは北極冠が順調に縮小しており、その後はλ=060°Ls後半、λ=070°Lsあたりまで、あまり下がらないという風に見える。これはボームのプラトーに相当すると思われるが、実際のボームたちの提唱はλ=010°Lsからλ=060°Lsまでといわれている(以前はλ=040°Lsあたりまでとされた)ので、すこしずれがある。ボームの縮小曲線については

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_14j.htm

 

の第三図を見られたい。

 

 このレヴューを閉じる前に、もう少し春先以後の北極冠周辺の大気の様子を概観しておく。2011年の九月の初めから太陽は北極冠域を暖め始めていて、年末には太陽直下点が Ds=21°Nにまでなったから、このときには70°N 以北は白夜になっている。火星の大気は希薄だから北極冠域は赤道周辺より暖まってきているわけで、すでに31 Dec (λ=051°Ls)までに北極冠は相当溶解していることになる。これは上の図に表れている。北極冠域で上昇した気団は赤道帯の方へ南下する。しかし、夏が近づくと赤道帯の方が次第に暖かくなり、空気は赤道から北極の方に流れようとする力が働き、北極冠付近では大気が淀むようになる。すると縮小速度も鈍化する。これが上のグラフの後半に表れていると思う。ただし、データが少ないことやシーイングにも恵まれているわけではないので、大まかなことしか言えないと思われる。                               


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