フランスのナントでの2011年の欧州惑星科学会議(EPSC:European
Planetary Science Congress;ナント大会についてはCMO#391巻頭の筆者のショートエッセイ参照1))に初めて参加してから一年が過ぎ、今年は9月にスペインのマドリッドで開催された最新のEPSC大会に参加した。
EPSC 2012は新しい話題を提供した:この専門的な惑星科学者の会合で、初の試みとして、アマチュアの天文学的活動に焦点を置いた会議が門戸を開放したのだ。その目的は惑星科学の分野での専門界とアマチュア天文界の二つの世界の共同活動の可能性を探ることである。ここ何年にも渡って画像の質のコンスタントな向上の恩恵を受けて惑星科学におけるアマチュアの貢献度は徐々に伸びており、またかほどに多数の裏庭天文台やベランダ観測所でアマチュア天文家が惑星を撮像し続けている量的なパワーは今や相当数の惑星科学者たちの正真正銘の注目を集めている。
この初のアマチュア分科会の期間中に報告された演題を列挙すると:ノルウェイとオーストラリアでの2012年の金星の日面経過の観測、ポーランドの火球観測ネットワーク(発表は実施されなかった)、ベルギーの電波を用いた流星の特性分析プロジェクト、2009年の木星によるやぎ座45番星の掩蔽、2011年の土星の大白斑、アマチュアによる火星の気象の観測、そして最後にGlenn
OrtonによるJUNO計画の報告で幕を閉じた2)。この分科会の招集を実質的に仕切っていたのはアマチュアのMarc
Delcroixであったが、彼自身は残念なことに都合で直前に参加できなくなった。
筆者自身の研究発表では、現代のアマチュア天文家が地球からどのようにして火星の気象を観測できるかについて述べた。焦点を当てたのは以下の四つのトピックである:
(1)赤道越流のダスト活動、(2)単一火星日中のダストの定常性、(3)遠日点季節での火星の白雲の短時間での変化消長、そしてもちろん(4)2012年及び以前の接近期での火星の欠け際の明突出の観測。
筆者の述べた結論は以下の通り:現代のアマチュア観測家が普通に備えている能力によって火星の大規模な気象学的現象は総て観測可能である;但し地球からの観測しかできないという制約は仕方がない(たとえば我々には火星の丸ごと一年を通しで短期間に観測することは不可能である)。いうまでもなく我々の観測から得られる火星のデータの質は、他の惑星の観測データの質と同様に近年著しい向上を示しており、それを受けてCMOのコラムではアマチュアの画像上から見出し得る、あるいは引き出し得る総てを詳細に示すよう全力が注がれていて、それに基づいて色々な考えを述べることが可能である。しかしながら、長期に渡って火星を周回し続ける複数の長寿命衛星探査機がもたらす観測データの質はレベルが高く、火星の気象を研究するに当たってアマチュアに興味深い貢献のできる余地はもはや少なく、この点で目立った例外としては欠け際の明突出の観測が挙げられるくらいだろうか。他の火星の分科会を覗いてみても近年のこの惑星についての研究がいかに高度に進展しているかが示されていて、長寿命周回衛星の観測データのない金星などの研究状況とは歴然とした差があり、我々の観測が貢献できる余地がより残されているのは金星のような惑星だろう。
アマチュアによる研究のポスターセッションのプログラムも開催されていて、筆者は特にManos
Kardasisのポスター木星系の詳細を小口径で捉えるための技術応用に興味を引かれた3)。
他方では、専門家の分科会でのアマチュアによる観測の貢献は土星、また取り分け木星の研究で顕著であった。
土星についてMarc
Delcroixが口演する予定であった研究は都合で共同研究者のGeorg
Fischer(オーストリア科学アカデミー、宇宙研究協会)が発表することになった4);2011年の土星の大白斑の発達から終局にいたるまでが詳細に提示できたのはアマチュアの画像に負うところが大きい(そして感銘を受けるといわざるを得ないのは、何十年にも渡って顕著な斑点模様を欠いているように見えた土星の、現在のアマチュアによる画像上に何と豊富なディテールが認められることか!)。
木星についてはビルバオ大学/エウスカル‧エリコ大学のAgustin
Sanchez Lavegaを中心としたチーム(Ricardo
Hueso Alonso、Naiara
Barrado Izagirre、Santiago
Perez-Hoyos、Jon
Legarreta
)が惑星仮想天文台&研究所(PVOL:Planetary
Virtual Observatory & Laboratory)5)のデータベースを活用してアマチュアの画像を使って研究を進めている。N.
Barrado IzagirreはPVOLの恩恵を受けて木星の帯流風速の測定結果を報告した6)。A.
Gallardo(グアダイラ天文協会所属のアマチュア)が開発した新ソフトjovianwindを使うとPVOLのデータベースから緯度の関数として木星の帯流速度を測定できる画像ペアを探すことができる7)。
会期の終わりに、近年のフランスのような非道い最終日の天候にもめげずに筆者はマドリッド市街を数時間かけて散策し、Barrio
de las letras(文学街区)の通りの美しい眺めを愛で、また本当に久し振りにスペイン語の会話を楽しんだ。次回のEPSCの大会は2013年9月にロンドンで開催される。ヨーロッパの最も壮麗な首都のひとつでまた素晴らしい天文学の至福のひとときがアマチュアにも開放されることになる。
(脚 注)
(1)http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn4/CMO391.pdf
(2)著者、抄録、オンライン全文についてはEPSCのホームページを参照されたい:
http://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC2012/sessionprogramme/AM
(3)http://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC2012/EPSC2012-927.pdf
(4)« Saturn northern hemispheres atmosphere after the 2010/2011 Great White
Spot ». Delcroix M., Fischer G., Barry T. 下記にて閲覧可能:
http://presentations.copernicus.org/EPSC2012-934_presentation.pdf
(5)PVOL :
http://www.pvol.ehu.es/pvol
(6)« Monitoring Jupiters atmospheric general circulation with ground-based
observatons obtained with small telescopes. N.
Barrado-Izagirre, J.F. Rojas, R. Hueso and A. Sαnchez-Lavega. 抄録を参照されたい:
http://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC2012/EPSC2012-545.pdf
(7)抄録参照:
http://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC2012/EPSC2012-145-1.pdf