19世紀以来我々は、互いに視差を持つ一対の写真や絵を隣り合わせに並べた立体視ペアを簡単なステレオスコープで眺めて飛び出し写真(絵)を楽しんできた。ステレオスコープの天文学研究への応用は20世紀初頭まで遡る;名高い観測天文学者であったGeorge VAN BIESBROECKは1904年の論文で、ステレオスコープによる固有運動の大きな恒星の検出、新しい小惑星や変光星の発見、恒星の分光写真上でのドップラー効果の検出、さらには彗星の三次元的構造の解明の可能性について言及している(脚注1)。
ステレオスコープは立体視写真ペアの融像を容易にするための装置である。立体視ペア、すなわち同じ被写体を少し違う角度から撮影した写真プリント像を2枚隣り合わせに並べたものをステレオスコープで両眼視(左の画像を左目で、右の画像を右目で)すると立体的な眺めを感じられる。これは融合した画像上に立体的な奥行きを感じられる一種の錯覚である(Fig.1)。
裸眼立体視は隣り合わせのペア画像を、ステレオスコープのような機械的装置や特殊な電子的技術に頼らずに両眼視する方法である。最近の調査によれば、正常な両眼を持つ人のうちの20%ほどは全く練習なし、もしくは最小限の訓練で裸眼立体視が可能であり、また60%あまりの人は段階的な練習を経てこれができるようになるといわれている。十数年前にはランダムドットや細密パターンの一見何も見えない頁を裸眼立体視すると文字のメッセージや浮彫、陰刻風の像などが立体的に見える立体視アートが雑誌や単行本でブームとなり、裸眼立体視できる人数の割合が飛躍的に増えたといわれているが、ブームが去ってこの割合は減少しつつあるようだ。筆者自身は多分生まれつきに、左右の眼の視線方向を独立に変えられる(ちょっとカメレオンのように)ので、中心間で20度角ほど離れた画像を裸眼立体視できる。裸眼立体視には以下の二通りの方法がある:
1) 平行法:左眼で左の画像を、右眼で右の画像を見る。これはステレオスコープを使
う時と同じ。
2) 交差法:右眼で左の画像を、左眼で右の画像を見る。
それぞれの方法に特徴がある。
ステレオスコープにはそれ用に特別に配列された専用の立体画像ペアが必要である。一方裸眼立体視法ができるならば、極端にいえばウェブ上だろうが新聞、雑誌上だろうが隣り合わせに並んでいる(多少離れていてもOK)似たような画像や絵は何でも両眼視できる。試しに新聞や雑誌の間違い探しパズルを裸眼両眼視してみると面白い。ものの数秒の内に総ての間違いを発見できるだろう。融像上で間違い部分は非常な違和感を発して目立つからである。このように、よく似た一対の画像間の微細な検出にも裸眼両眼視は有効である。
筆者もそうだが、惑星に興味のある裸眼立体視マニアにとってはインターネットウェブは夢の国、宝の山であり、おびただしい数の惑星立体視ペアが待ち受けている。可能ならばこれを楽しまない手はない。もし読者が裸眼立体視に慣れていないならば、下記等を
参照して練習されるとよい:
http://ammo.jp/cursor/9712/index.html
http://ecbar.web.fc2.com/index.html
http://www.studio3d.com/pages2/freeview.html
http://www.vision3d.com/virtual.shtml
http://nzphoto.tripod.com/sterea/stereoview.htm
http://www.angelfire.com/ca/erker/freeview.html
多くの人々は平行法、交差法の両方のやり方を習得できるが、どちらか一方が実行しやすい場合が多いようである。惑星画像の立体視には平行法の方が適しているかもしれない。その理由は、一回の撮像機会に得られた惑星画像がウェブ上に掲載されるときには、左から右に向かって時間順に配列されることが多いからで、これは現代の主要な言語の多くが左から右への書き順/読み順になっているからだろう;主要惑星の南が上向き画像の左が早くて右が遅い横並びの配列の画像ペアを自然な感じで立体視するには平行法がドンピシャである。なぜならば火星、木星及び土星の倒立像上では自転に従って表面模様は右から左(西から東)に移動していくので、左の画像に比べて時間的に後の右の画像では模様が少し左(東)にズレている。これを平行法で立体視すれば、惑星立体模型を近くから普通に両眼視したときの自然な視差のようにこのズレが働き(疑似視差)、宙に浮かぶボールのような立体的な惑星像が見える。このような眺めは、身長ウン千万kmの巨人のウン十万kmの目幅で近くから眺めたらそのような立体惑星像が見られるだろうというアナロジーからGiants Binocular View( 巨人の両眼視の眺め)とも呼ばれる。ちなみに倒立惑星像の左早右遅の配列の画像ペアを交差法で裸眼立体視すると疑似視差が逆方向に働いて、仮面を後方から見たような不思議な立体惑星像が見える。
ともかく、裸眼立体視ができるようになれば、ウェブ上などで非常に多数の見事な惑星像立体視ペアを見つけることができる。それらの中には神秘的な立体感を楽しめるだけでなくて、天文学的に非常に興味深い現象を示す例がままある。以下に筆者が最近出合ったいくつかの例を紹介しよう:
木星:木星の段階的差動自転の両眼立体視による検出
(最小限の画像数で帯流速度差の定量的観測が可能か?)
近年の撮像家諸氏による素晴らしい木星画像はまことに印象的で驚かされる。最良の画像のいくつかはHST(ハッブル宇宙望遠鏡)の木星のスナップショットの鮮鋭度に優に匹敵する。筆者は昨年の冬にCMO#392 のSolar & Planetary LtE掲載の阿久津富夫氏の2011年12月3日撮像の秀逸な2画像を眺めていて、これらが見事な裸眼立体視ペアとなることに気付いた。12分ほどの間隔で撮られた阿久津氏のLRGB合成カラー画像を使用したモンタージュをここに添付する(Fig.2a)。3画像のうち、左の2画像は平行法裸眼立体視ペア、右の2画像は交差法裸眼立体視ペアとなる。また色彩による立体感効果の可能性を除外する目的で、上記画像のグレイスケール(輝度差のみの白黒画像)のモンタージュもここに添付する(Fig.2b)。
まあともかくこのステレオペアを裸眼立体視してみてほしい。何が見えるだろうか?筆者がこれを平行法で立体視すると、この巨大ガス惑星の回転楕円体のボールのような実に綺麗な立体像が見える。これはもちろん、2画像の撮像間隔12分の間の木星の自転による模様の移動で、基線長(目幅距離)が延長したような効果が生じて、『ハイパーステレオ視』もしくは『巨人の両眼視』効果が得られたことによる。しかしながら筆者には木星全球の楕円体の立体ボール状だけでなくて、木星面の模様自体に異様な立体感が明らかに見分けられる。たとえば体系Ⅰの模様は隣接する体系Ⅱの模様に対して浮き上がって見える。また他の帯縞のいくつかも隣在の帯縞より近付いて、あるいは遠ざかって見える
結果として木星全体が、少し緩みかけたミイラの包帯巻きのような感じに見える。添付のグレイスケール(モノクロ)にした同画像ペアを立体視しても同じ効果が得られる;これによって、色彩による立体感効果(chromostereopsis)の影響は考え難いことになろう。
これは錯覚だろうか!? 筆者はこれは紛れもなく現実であって錯覚ではないと信ずる。二つの画像を撮る間に隣接する速度の異なる帯流間に生じた相対的な模様のズレが疑似視差効果となって、両眼立体視によって隣り合う帯流が遠近に立体的にずれて見える
すなわち帯流の流速差(自転周期差)を見かけの3D凹凸(疑似立体感)として再現性を持って実際に検出しているのだと考える(木星面の雲の実際の高さの差の凸凹をを立体的に検出しているのではないことに注意!)。我々が使用する望遠鏡の解像力では、ディジタル画像上の木星面の個々の模様は12分間やそこらの短時間では実質的に外観の変化を全く示さないと考えてよいだろう。他方、たとえば、12分間に体系Ⅰのカレントは体系Ⅱに対して経度で0.06゚前方(東、倒立像で左方)に進む。このズレは木星像の赤道あたりの子午線付近での実視角で0.03秒角、あるいは80㎜径の木星画像の0.04㎜に相当する。このズレ量は小さ過ぎて望遠鏡の分解能を超越しているし、人間の眼/脳システムすなわち視覚系の検出能力ではとても及ばないように思えるかもしれない。これについて、まず望遠鏡の分解能の表示でよく使われるドーズ値は、いにしえの鋭眼の観測者の経験値を定数に6等級の等光の二重星の実視分離を基準に適用されるもので、観察する対象が異なれば話も変わる。たとえば線状の模様を検出する際にはドーズ値の1/10の細い条模様まで見分けられると昔からいわれている。土星のA環の両端の最も幅の広いところでわずか0.05秒角幅のエンケのギャップをE.M.アントニアディは1899年に26㎝屈折で正確な位置にスケッチしているようだし、近年のCCD撮像家諸氏の25~40㎝口径クラス(ドーズ値は0.46~0.29秒角)でのCCD画像はこのエンケの空隙を楽々と捉えている。したがって木星の良好なディジタル画像はドーズ値より一桁小さいスケールでの画像情報を内包することが可能と考えられるだろう。さらに人間の諸感覚系が対象の微細な差異やズレを見分ける能力についてはhyperacuityと呼ばれる現象が知られている(寡聞にして和訳語を知らない。原語のまま、あるいはハイパーアクイティで使っている文献が多いようである。強引に訳せば超微差認識力とか?視覚系ならば超視力か?)。視覚系で例を挙げると、ノギスの副尺を読むような微細な直線のズレを認識する能力(vernier acuity)は、ギネス認定レコードでは角度にして2秒角(!)、通常の視力の1/30 の微細な直線の食い違いを見分ける人がいるわけである。そして両眼立体視で対象の奥行きの差を立体的に見分ける能力、すなわち視差を検出する能力をstereoacuity(こちらは訳語があって『立体視力』)と呼び、これも非常に鋭敏でhyperacuityに分類されており、熟練者は5~6秒角の視差を楽に検出する(立体感を捉える)といわれている。この視差は25㎝のいわゆる明視距離から見た時の0.02㎜幅のズレに相当する。
かくして、話を戻して、80㎜径の木星画像を使ったステレオペアの撮像間隔12分間における体系Ⅰの体系Ⅱに対する0.04㎜の前進ズレは、両眼立体視によって疑似視差として余裕を持って検出できて、体系Ⅰが帯状のレリーフとして浮かび上がって見えることになる。帯流間の自転周期差(風速差)を3Dの凸凹として観察できるわけである。
ここでミソとなるのは、我々の望遠鏡の画像の解像力では12分とか20分の撮像間隔では個々の模様は実質的に変化しないという点である。もし模様のパターンがこの時間内で大きく変化してしまえば、両眼視による2画像の自然な融像そのものが困難となろう。変化しない模様を乗せた帯縞同士がかなりの早さで相対的にすれ違う
窓際の席で眠りこけて身動きしない多数の乗客を乗せた急行電車が同様の乗客を乗せた鈍行電車を追い越して行くように
からこそ自然で快適な両眼立体視で上記効果の観察が可能となる。
Figure 3に上記の説明のシミュレーションを示す(阿久津氏の画像のプリントアウトを文字通り切り貼りしたローテク、原始的な模擬ではあるが)。中央の画像では、STrZ(測微目盛のラインが位置する緯度)を境にして、その北側(下側)の画像を南側(上側)の画像に対して0.2㎜東(左)にズラしてある。このズレ量は木星の一回の自転周期で5分間の差異(体系Iと体系IIの差に近い)の一時間分の模様のズレを木星の赤道あたりの中央子午線付近で見た量におおよそ相当する。左右に隣接する画像は立体視ペアを形成するための加工していない画像である。裸眼立体視すると、STrZ以北の部分が以南の部分よりも手前に立体的に浮き上がって楽々と見えるだろう。(ちなみに自転による模様の移動は含まれていないので、木星の立体的ボール像は見えない。)このシミュレーションで練習してから再度Figs.2a & 2bの立体視に挑戦していただくと真の帯流速度差の立体的な見分けが楽にできるだろう。
Figure 4には再び阿久津富夫氏の見事な赤外画像による立体視ペアを掲げた。ここには大赤斑(Great Red Spot:GRS)の立体視観察に対する奇妙な反応が見られる。この画像ペア上では、このところ赤くなっているOval BA(融合合体したかっての三つの永続白斑)がたまたまGRSの真上を通過中である。BAの進み方はGRSよりもわずかに速く、およそ二年に一度BAがGRSを追い越していく。両者の速度差はあまりにも小さいので、我々の画像ペアの立体視では見分けられず、したがってFig.4を裸眼立体視するとBAとGRSは立体的に同じレベルに見えるはずである(より正確には仮想基準楕円体表面にベタッと貼りついたように)。しかしながら筆者には平行法でも交差法でもGRSはOval BAよりも明らかに手前に見える
これは一体全体どうしたことだろう!? 筆者の解釈はこうである:GRSは超巨大な高気圧の嵐で、反時計回りに六日ほどの周期で回転している。したがって背景の模様に対してGRS南縁付近の模様は速いスピードで前進する(倒立像上で東/左に進む)。そしてGRS北縁あたりの模様は同様の速さで後退する(同、西/右に行く)。その結果、GRSの南端(上端)付近は手前に浮き上がって見え、北端(下端)は向こう側に引っ込んで見える。結局このあたりの緯度なりの後方に傾斜した背景に対してGRSはかなり直立して見えることになる。これこそがGRSがBAよりも近く見える理由に違いなかろう(GRSがその北側で湾状に押しやられているSEBsよりも遠くに見えることにも注目;おそらく逆方向の同じ理由によるのだろう)。
Figure 5は石橋 力氏が2012年9月7日に撮像した20分間隔の五連続画像を時間順に横並びにアレンジしていただいたモンタージュである。このような配列の画像は惑星画像(平行法)裸眼立体視マニアにとっては抵抗し難いご馳走である;経験豊富な平行法立体視の使い手ならばFig.5で十組の画像ペアを立体視できる
四組連続の20分間隔の立体視ペアに加えて、さらに撮像間隔が長くて立体効果も強い六組のペアを裸眼立体視できる! 交差法一本やりの人はお面を裏側から眺めたような立体感を見ることになって、浮き彫りは陰刻に、陰刻は浮き彫りに見えることになるが、慣れればこれも悪くないかもしれない
なにせ我々は天界を外から眺める天球儀に慣れてしまうくらいだから。天然の平行法立体視使いである筆者の個人的な希望としては、世界中の惑星撮像家諸氏は一回の撮像セッションの画像をウェブに載せる、あるいは投稿する際にぜひ、隣同士の間隔をできるだけ詰めた時間順の横並び一列の画像に配列してほしい。そうすれば何もいじらずにその場で即座に自然な裸眼立体視が可能となるからである(本稿の後の方に登場するFig.9の絶好例をお楽しみに)。
最も適当な時間間隔ということに関しては画像の質に依存するだろう。我々の望遠鏡を使った最高の解像度の画像ならば10~12分という短い撮像間隔でも木星の差動自転による立体レリーフの検出が容易に可能で、しかも木星面の非常に広い範囲が観察できて、同時に木星本体の全体的なボール状の立体感も楽しめるだろう。平均的な解像度の画像では20分くらいの撮像間隔が適当か;帯流風速差の立体的浮き沈みの検出が楽にできて、オーバーラップして観察できる木星面の範囲はまだかなり広い。撮像間隔が30分を超えると立体感はさらに強調されるが、快適自然な融像が難しくなる。WinJUPOSで自転補正した画像ペアでも立体視観察はうまくいくのではないかと想像している。
一晩のうちの撮像活動で得られた適当な時間間隔のステレオペアの立体視で、不顕性の高速ジェット気流や、何らかの理由で高速ドリフトする模様をいち早く検出できれば続く追跡観測の役に立つだろうか。最近のNEBsアウトブレークのように高度に攪乱された状況でも興味深い効果を発揮するかもしれない。また大赤斑のように特異な大気運動の振舞を見せる領域を見つけるのにも有効かもしれない。筆者はいくつかの立体視ペアの観察で、両極地方で異常な立体感覚を示す領域を経験しており、それらが大規模な緯度越流大気運動の反映である可能性を想像している。
両眼立体視による木星上層大気の差動自転の検出は多分に定性的であろう。筆者は、歯科補綴装置(歯にかぶせるセラミック冠など)のCAD/CAM製作に使われる実体写真測量ソフトなどのStereophotogrammetrical Softを応用すれば、我々の仲間が一晩の撮像活動で得た高解像度木星画像を使って、帯流差動の定量的判定が可能になるかもしれないと考え、試し始めている。
土星:両眼立体視による差動自転検出の可能性
もう一つの巨大ガス惑星である土星には確固とした差動自転が存在することが知られている。しかしながら土星は木星に比べて遠く、小さく、暗く、我々の望遠鏡の解像力ではよほど例外的に顕著な模様が出現したとき以外はまずその本体上の差動自転を両眼立体視で捉えることは困難だろう。ここでは可能性がありそうかな、という一例を紹介しよう。
Figure 6の立体視ペアは再び阿久津富夫氏の画像によるもので、2011年4月27日撮像の30分間隔のペアである。この時期この有輪惑星の北熱帯から北温帯にかけての緯度帯は観測史上初かというくらい高度に攪乱されていた。筆者には裸眼立体視で、NTrZの夥しい白斑群が、そのすぐ北の巨大な楕円形の暗色模様の手前に明らかに浮かび上がって見える。読者諸氏にはどのように見えるだろうか!?
火星:両眼立体視による間違い探しパズル?
火星は固体の表面と薄い大気を持つ地球型の惑星である。固体が自転する際には、ある瞬間に隣接していた地域は、時間が経過して自転が進んでも隣接したままである。すなわち差動自転は存在せず、模様どうしが系統立って相対的にずれて疑似視差効果によって立体視で凸凹感をもたらすこともない。ということで適当な時間間隔で撮像された火星の画像ペアを裸眼立体視すると、凸凹の無い非常に滑らかで綺麗なボール状の立体的な火星像が見えるだろう。オレンジ色の滑らかな球体の上に水彩絵の具で描いたような表面模様が見える(油絵のような凸凹がない)。したがって火星画像のペアを両眼立体視するのはある意味間違い探しパズルに立体視で挑むようなものだろう;両眼立体視の融像上では個々の画像間の微妙な変化は刺激的な違和感を発して自ら存在をアピールし、即座に見分けられる;これはアルベドー模様の短期のデリケートな変化をチェックしたり、あるいは初期のダストがa local daytimeの間に巨視的には全く変化しないことを確認するのに有効かもしれない(脚注2)。画像間の変化を検出するにはブリンクコンパレータ―法の方がより鋭敏かもしれない(stereoacuityより敏感なvernier acuityを利用するので)。しかし立体視ペア画像を配列するのに比べて、惑星画像のブリンキングアニメーション(点滅動画)の準備は色々な制約もあってはるかに面倒であろう。
Figure 7は2005年10月18日にWilliam D. FLANAGAN氏が撮像した25分間隔の秀逸な画像による立体視ペアである。Chryse地域上の初期段階の局地的ダストが撮像間隔の間に全く変化していない(融像上でダストの部分に何の違和感も感じない)ことに注目。
Figure 8には、再びFLANAGAN氏による2005年10月22日の三画像による平行法立体視ペアを示す。22分、34分及び56分の撮像間隔の三組の平行法ペアが得られる。これらを裸眼立体視して筆者が驚いたことに、Solis LacusからThaumasiaにかけてのダスト中の数個の明るいコアや、南極域から遥か北方のSinus Meridianiにかけて長く伸びる斜めの条状のダストが火星面から立体的に浮き上がって見える! 陰影風の濃淡による錯覚かもしれないが、その手のイリュージョンでないとすれば、他に説得力のある説明は今のところ考えつかない。ダストの上昇端がそのような高高度に達するのだろうか? あるいは立体視のhyperacuityによってダストの微妙な東方への移動が検出される可能性があるのだろうか?
火星について最後になるが、Fig.9にDonald C. PARKER氏2003年8月17日撮像の見事な画像の同氏のオリジナル画像配列の一部を掲載する。これが遥か上で(Fig.5のあたりで)約束した(平行法)惑星像裸眼立体視マニア垂涎のご馳走の絶好例である。何も言わず平行法立体視して、カラー及び白黒の恐ろしく見事な8個の立体ボールが並んで宙に浮かぶさまを楽しまれたし!(交差法立体視ではサラダボウルを上から眺めたように見えるが。)太陽系最大最高の火山Olympus Monsの真の立体感さえ、もうちょいで見分けられそうな気がする!
この長いエッセイを読み通していただいた忍耐に感謝し、しめくくりに当たってお勧めするのは、もし裸眼立体視ができるならば、遭遇する総ての隣り合わせの互いによく似た画像ペアを条件反射的に両眼視で融像させてみることである。予想外に興味深い所見が得られるかもしれない!
(脚注)
1)
Stereoscope Applied to Astronomical Researches, G. Van
BIESBROECK.
Popular Astronomy, vol. 12,
pp.318‐327, May 1904.
2)黄雲畫像のパッチワークを排す
南 政次、CMO/ISMO
#399 (