2011/2012 CMO/ISMO 観測レポート#09
2012年三月後半の火星観測 (λ=084°Ls~091°Ls)
CMO #397 (
(近内令一氏 訳)
♂・・・・・ 今回の報告はやや遅れたが2012年三月後半の観測をとりまとめる。火星は獅子座にあって主星α Leoに接近しつつあった。 季節の指標λは084°Lsから始まって091°Lsへと達して北半球の夏至をまさに過ぎた。視直径はδ=13.7”から12.6”へと減少した。軸の傾きを示す中央緯度はφ=22°Nを保っていて残留永久北極冠の全容が常にこちらを向いている。 位相角はι=10°からι=20°まで急激に変化して朝方から午前中の景観がぐっと広がってきた。明け方の霧帯はかなり顕著で、その霧海からカルデラを載せた巨大火山の頭が突出する様子もしばしば観測された。特筆すべきは太陽からの突発的なCME(Coronal
Mass Ejection:コロナ質量放出)に起因する明るい顕著な突起が火星の明け方の欠け際に数回観察されたことで、これは2003年11月の我々の観測結果を確認するものである。このような朝方の欠け際の明るい突出現象はこの4月中にも幾度か観測されていて、太陽活動と火星上の残留磁場との関わりを強く示唆している。
寒波の南下で天候不順が続いた日本だが、開花の遅れた櫻花も散り急ぎ始めた。報告のあった観測者数は海外からの32名に対し、国内からはわずか6名であった。
♂・・・・・この期間、下記の方々から観測を拝受している。
ジェイ・アルバート (JAl) フロリダ、アメリカ合衆国
1 Drawing (
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリッピン
13 Sets of RGB + 12 IR + 2 UV + 12 LRGB
Colour + 12 L Images (16, 21,~25, 28, 30.
36cm SCT @f/36, 55 with a DMK21AU04
ドン・ベーツ (DBt) テキサス、アメリカ合衆国
2 Colour Images (24,
リシャルト・ボズマン(RBs) オランダ
1 Set of RGB Images (
スティーファン・ブダ (SBd) メルボルン、オーストラリア
2 Colour images
(17,
マルク・デルクロア (MDc) トゥールヌフィーユ、フランス
1 Set of RGB +
2 IR Images (23,
フランシスコ=ホセ・フェルナンデス=ゴメス (FFn) オウレンセ、スペイン
2 Colour images
(19,
ビル・フラナガン(WFl) テキサス、アメリカ合衆国
1 Set of LRGB Images (
カミロ・フメガ=ウチャ (CFm) ガリシア、スペイン
2 Colour Images
(27,
サデグ・ゴミザデ (SGh) テヘラン、イラン
6 Colour
Images (19, 21, 23, 25, 26,
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
1 Colour Image (
リチャード・ヒル (RHl) アリゾナ、アメリカ合衆国
3 Colour
Images (22,
サイモン・キッド (SKd) ハートフォードシャー、英国
3 Colour Images (20,
23,
神崎 一郎 (Kz) 東久留米、東京
16 Drawings (16, 20,~22,
24,~
近内 令一 (Kn) 石川町、福島
5 Drawings (21, 28,
熊森 照明 (Km) 堺、大阪
6 LRGB Colour
+ 3 B Images (21, 24,
28cm SCT @f/33,
60 with a DMK21AF04/DFK21AF04
シルヴィア・コヴォッリク (SKw) ルードヴィクスブルグ、ドイツ
4 Sets of RGB + 1
IR Images (20, 22, 26, 26n March 2012) 20cm speculum with a
DMK31AF03.AS
ピート・ローレンス (PLw) ウエストサセックス、英国
1 Colour Image (
マーチン・ルウィス (MLw) ハートフォードシャー、英国
8 Colour Images (18~20, 23,~25,
27,
22cm speculum @f/44 with a DMK21AU618.AS
スタニスラス・マクシモヴィッチ (SMk) エクヴィリィ、フランス
9 Sets of
Drawings (16#1, 19#1, 21,~23#2, 25,~27#3, 28#
160×~330×20cm Cassegrain, 215×,230×13cm Cassegrain#1, 290×30cm Cassegrain#2,
250×10cm Refractor#3, 250×15cm Refractor#4
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
14 Colour Images
(18, 19, 23, 24, 28,
南 政 次 (Mn) 福井 (福井市自然史博物館天文台)*
24 Drawings (19,
21,
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
9 Sets of LRGB Images (17,~ 20,
22,~24, 28,
マーチン・モルガン=テイラー (MMr) レスター、英国
1 Sets of LRGB
+ 1 IR Images (
7 Sets of RGB
+ 7 LRGB Colour + 7 L Images
(19, 21, 27,
25cm speculum
with a Flea3
村上 昌己 (Mk) 藤澤、神奈川
5 Drawings
(
ドン・パーカー (DPk) フロリダ、アメリカ合衆国
9 Set of RGB
+ 3 UV Images (17, 21, 24, 27,
36cm SCT @f/42
with a DMK21AU618.AS
デミアン・ピーチ (DPc) ウエストサセックス、英国
6 Sets of RGB + 6 Colour + 2 R
+ 3 B Images (18, 19, 21, 23, ~
(36cm SCT with a
SKYnyx 2-0M)
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
10 Sets of RGB
+ 1 B + 9 IR + 1 Violet + 3 UV+ 4 LRGB
Colour Images
(19/20, 24, 28,~
ジム・フィッリプス (JPh) サウスカロライナ、アメリカ合衆国
1 Colour
+ 1 B Images (
ジャン=ジャック・プーポー (JPp) エソンヌ、フランス
2 Sets of RGB
+ 2 IR Images (19,
35cm
Cassegrain @f/29 with a SKYnyx 2-0
イアン・シャープ (ISp) ウエストサセックス、英国
6 Colour Images (18, 23, 24, 27,~
クリス・スメト (KSm) ベルギー
2 Colour Drawings (
デーヴ・タイラー (DTy) バッキンガムシャー、英国
3 Sets of LRGB +
6 Colour + 4 R + 2 L Images (18, 24, 26, 29,
36cm SCT with a Flea3
ヨハン・ヴァレッル (JWr) シュヴァルプ、スエーデン
7 Sets of RGB
Images (16#, 19, 22, 23, 25,~
22cm speculum @f/27 with a DBK21AU618 & ToUcam pro III#
アンソニー・ウエズレイ (AWs) ニューサウスウエールズ、オーストラリア
2
Colour Images (19,
フレッディ・ウイッレムズ (FWl) ハワイ、アメリカ合衆国
10 Sets of RGB
+ 7 Colour + 13 IR Images (19,~21,
36cm SCT with a DMK21AU04.AS
♂・・・・・追加報告:
ピーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
2 Sets of RGB + 2
IR Images (7,
♂・・・・・三月の後半には幾つかの重要な現象があった:ここではその一部を取り上げるが、どれも非常に興味深い。なんといっても嚆矢は21
Mar(λ=086°Ls)にパーカー(DPk)氏とフィッリプス(JPh)氏が捉えた明け方の欠け際からの明るい突出現象だろう。その前日の20
Marにウェイン・イェシュケ氏(ウェスト・チェスター、ペンシルヴェニア、アメリカ合衆国)が観測して今回最初のアピールをした現象と同類と思われる。DPk氏の群を抜いた画像は圧巻である。JPh氏の画像セットのB光像も興味深い。これらの画像からはこの明突起は菫色波長域で特に明るいことが示唆される。
この現象は三月18日あたりに太陽上で発生したCMEが火星に到達して惹き起こしたことは間違いない。CMEの伝播は非常に高速度であるが、火星上のキノコ型(もしくは開いた傘型)の残留局所磁場にこれが遭遇すればそこに遮断阻止効果が暫らくの間働き、明るい突出はかなり長く持続して見えることが可能になろう。従ってDPk氏の場合はちょうど好いタイミングでこの現象を撮れたのだろう。
この現象は2003年に既に我々によって知られていたことに注目されたい。すなわち下記にレポートされているように:
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/283OAAj/index.htm
我々の一人南 政次(Mn)によって今回と同様の現象が4
Nov 2003に眼視で注目され、同7
Novにも再度同じ現象が捉えられた。Mnの印象では彼が2003年に眼視で見た感じとDPk氏の今回の画像上の明突起の様子は極めて好く似ている。前回のこの現象は森田行雄(Mo)氏によっても独立に7
Nov 2003に撮像され、続いてMnからの要請により8
Novに宮崎 勲(My)氏もこの明突出を撮像している。明らかにこの時期太陽は猛烈な活動期にあり、それ故我々はこの現象がCMEやフレアのような太陽活動によって惹起されたに違いないと確信した次第である。この観測記録は長いことほとんどの人々から忘れ去られていたが、今回の数片のCCD画像が再び注目を呼び覚ますこととなった。(ウェイン氏が見い出したのをホンの皮切りに、その後も続々と記録されており、同様の明け方の欠け際の明るい突出は25
Aprにフラナガン(WFl)氏も観測した、来月のレポートで扱う)。ということでこの種の現象は火星の季節とは関わりがなく、したがってむしろ太陽のあらゆる局所的な活動を怠りなくチェックしておくべきであろう。思い起こすに2003年のこの現象の折には我々は十分な時間と回数を掛けた追跡観測を目指した。しかし今回は一日、二日の行き当たりばったりの追跡が多いのはどうしたことか。
まあともかく、CMEの通過に伴う火星上での“残留効果”を追求することが重要である。高速度のCMEの瞬時の通過後の火星上にしばし残留する影響とは一体全体なんであろうか!?
♂・・・・・ 遠日点接近特有の現象として今回観測報告された幾種類かのうちの一つは、タルシス巨大火山群が明瞭な濃點として白霧を透して(もしくは霧海から頭を突き出して)認められたことである。多数の観測報告の中でずば抜けて鮮明な画像はピーチ(DPc)氏が得た数々の画像、たとえば19
Mar(λ=085°Ls)ω=069°W、あるいは24
Mar(λ=088°Ls)ω=044°Wの作例である:DPc氏の撮像タイミングの選定は絶妙と強調すべきだろう。
♂・・・・・ エフライン・モラレス=リベラ氏の渾身の観測活動も評価したい。
(村上 昌己/南 政 次)
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