2011/2012 CMO/ISMO 観測レポート#05
2011年十二月の火星観測 (λ=037°Ls~051°Ls)
CMO #393 (25 Jnauary 2012)
♂・・・・・十二月の状況:今期五回目となるレポートは、2011年十二月中の観測を取り扱う。火星は「しし座」後足の下をゆっくり順行していて、十二月8日頃には「西矩」となって夜明けには南中するようになった。しかし、視赤緯Dは十二月末には6°N台まで下がって南中高度も60°程度で低くなってきている。この期間、視直径はδ=7.1"から9.0"まで増加して、季節はλ=037°Lsから051°Ls迄進んだ。中央緯度はφ=24°N台で推移して中旬に最大の24.2°Nになりゆっくり戻っている。位相角はι=37°から34°になり欠けがやや小さくなった。
北極冠の縮小の停滞がある時期であったが、日本海側の天候は不順で、福井では観測がほとんど出来なかった。太平洋側でもシーイングの悪さに観測は捗っていない。
♂・・・・・観測報告:十二月の観測報告は以下の方々から寄せられている(苗字のアルファベット順)。今回は国内から6名、外国から13名であった。アメリカ、ヨーロッパからの参加がやや増加したのに加え、高度がでてきた南半球のオーストラリアからの報告も入ってきている。
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリッピン
CCD画像 RGBセット 1、他 3 画像 (10 December 2011)
36cm SCT @f/45、DMK21AU04, DFK21AU04 カメラ使用
スティーファン・ブダ (SBd) メルボルン、オーストラリア
CCD画像 RGBセット 1、他 1 画像 (21, 29 December
2011)
40cm Dall-Kirkham、DMK21AU04 カメラ使用
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
CCD画像 LRGBセット2 (1, 30 December 2011) 36cm SCT @f/27、Flea3 カメラ使用
サデグ・ゴミザデ (SGh) テヘラン、イラン
CCD画像 5 、他 3 画像 (20, 21, 28, 29, 31 December 2011)
28cm SCT、DMK21AU04.AS カメラ使用
ピーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
CCD画像 5 、他 5 画像 (2, 12, 18, 27, 29 December 2011)
36cm SCT @f/28、DMKAU618.AS カメラ使用
近内 令一 (Kn) 石川町、福島
スケッチ 9 葉 (24, 27, 31 December 2011) 30cm SCT、500倍使用
スタニスラス・マクシモヴィッチ (SMk) エクヴィリィ、フランス
スケッチ 9葉 (24, 26#, 27##, 29 December 2011)
31cm カセ 290, 340倍使用、11cm 屈折# 260倍使用、20cm カセ## 320倍使用
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
CCD画像 5 (3, 12, 19
December 2011) 25cm SCT with a
ToUcam pro II
南 政 次
(Mn) 福井 (福井市自然史博物館天文台)
スケッチ 9 葉 (13, 31 December 2011) ×20cm Goto ED 屈折、400倍使用
森田 行雄 (Mo) 廿日市・広島
CCD画像 RGBセット 5 、他 16 画像 (4, 13, 27, 28, 30 December 2011)
25cm 反射 @f/80、Flea3カメラ使用
村上 昌己 (Mk) 藤澤、神奈川
スケッチ 5 葉 (17, 24 December 2011) 20cm F/8 反射、320倍使用
中 島 孝 (Nj) 福井 (福井市自然史博物館天文台)
スケッチ 9 葉 (13, 31 December 2011) ×20cm Goto ED 屈折、400倍使用
ジャン=ジャック・プーポー (JPp) エソンヌ、フランス
CCD画像 RGBセット 3 (10, 11 December 2011) 35cm カセグレン、SKYnyx 2-0カメラ使用
マイケル・ロゾリーナ
(MRs) ウエストヴァージニア、アメリカ合衆国
カラースケッチ1葉 (3 December 2011) 35cm SCT, 390, 490倍使用
イアン・シャープ (ISp) バルバドス、西インド諸島
CCD画像 5 (9, 11, 14, 16, 18 December 2011) 28cm SCT
@ f/67、Flea3 カメラ使用
クリス・スメト (KSm) ベルギー
カラースケッチ1葉 (10 December 2011) 30cm ドブソニアン、220倍使用
ショーン・ウォーカー (SWk) ニューハンプシャー、アメリカ合衆国
CCD画像 3 (2, 12 December 2011) 32cm 反射、DMK21AU618 カメラ使用
ヨハン・ヴァレッル (JWr) シュヴァルプ、スエーデン
CCD画像 RGBセット 2 (8, 19 December 2011)
22cm 反射@f/17、ToUcam pro III カメラ使用
♂・・・・・追加報告:
ピーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
CCD画像 RGBセット 1 、他 1 画像 (31 October
2011)
36cm SCT @f/28、DMKAU618.ASカメラ使用
デミアン・ピーチ (DPc) ウエストサセックス、英国
CCD画像 2 、他 2 画像 (23 November 2011) 36cm SCT、SKYnyx 2-0Mカメラ使用
♂・・・・・十二月の観測状況: 十二月の視直径δの推移は7.1"から9.0"まで、火星の季節はλ=037°Lsから051°Lsまで進捗した。重要な季節であったにもかかわらず、日本側では西高東低の悪天候のため成果が上がっていない。裏日本の福井(Nj氏、Mn)では13Dec(λ=043°Ls)と31Dec(λ=051°Ls)に若干晴天に恵まれただけだし(後述)、表日本も概してシーイングが悪かった。Mo氏は多忙にも拘わらず活躍中であるが、やはりシーイングに悩まされているようである。04Dec (λ=039°Ls)ω=298°Wで、シュルティス・マイヨルを撮っているが、ヘッラスは明確でなく、シヌス・サバエウスがすんなりと見えるのが救いである。Mo氏は更に13Dec(λ=042°Ls)ω=203°Wでも撮ったがシーイングには恵まれてはいない。ただしプレグラの太い様子や、午後に入ったエリュシウムの状況を把握している。27Dec(λ=049°Ls)にはω=045°W/049°Wで夕方のマレ・アキダリウムから朝方のソリス・ラクスまで、30Dec (λ=050°Ls)ω=019°Wにはマレ・アキダリウム中心に撮ったが、やはりシーイングの所為で、像がスッキリしない。ただしω=045°WのR光ではガンゲスからオピルを綺麗に描写している。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111227/Mo27Dec11.jpg
Ak氏は10Dec(λ=042°Ls) ω=237°W/241°W、249°Wに撮っているが、模様はよく出ているもののゴーストが多く、ここでは触れない方が好いだろう。ただエリュシウムの夕雲は捉えている。
眼視ではKn氏が観測を開始し、24Dec(λ=048°Ls) ω=088°W、097°Wで北極冠のダークフリンジは濃く、 マレ・アキダリウムからソリス・ラクスまで見ている。26Dec(λ= 049°Ls) ω=059°W、069°Wでは北極冠明瞭、フリンジは幅広く濃く、東側でより濃い。マレ・アキダリウムは中性の色で濃く、南半球の模様も同様に濃く、ただしアウロラエ・シヌスやソリス・ラクスは褐色系。アルギュレは少し明るいかも知れない。31Dec(λ=051°Ls)にはω=001°W、011°W、021°W、030°W、040°Wと観測し、シヌス・サバエウス/シヌス・メリディアニを始めマレ・アキダリウムなど付近の模様を綺麗に描き出した。アルギュレも少し明るい。気温-1°C。Kn氏の素晴らしいスケッチの技術は健在である。
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福井での13Dec(λ=034°Ls)の観測は模様の少ないところで、北極冠のみがやたら目立つという状況であった。31Dec(λ=051°Ls)は透明度が悪かった。
村上(Mk)も17Dec(λ=045°Ls)に開始した。北極冠を認めるだけで観測にならないが、24Dec(λ=048°Ls)ω=082°Wなどでは夕端のマレ・アキダリウムを認めている。アルギュレの明るさも少し認めている。
一方、米英側では良い結果を出している。01Dec(λ=037°Ls)ω=195°WにWFl氏が良像をもたらし、エリュシウムは真昼直後だが明るく見えている。特に注目するのは、北極冠内に永久極冠の縁(これをP環と称することにする)が明確に顕れてきていることである。02Dec(λ=042°Ls) ω=156/159°WのSWk氏の像にも出ている。
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02DecからはPGc氏が次に様に連続して撮り、或る領域をカヴァーしている:02Dec(λ=038°Ls)ω=156°Wでは夕方のオリュムプス・モンスに稍雲があり、またカルデラの蔭も出ているようである(ι=37°)。P環も稍見える。
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続いてPGc氏は12Dec(λ=042°Ls)ω=055°Wで撮像し、マレ・アキダリウムの三角形の暗部、ニロケラスの双葉型から南部ではソリス・ラクスを描写した。この日にはSWk氏はω=053°Wで似たような良像をかもしている。P環も明瞭である。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111212/SWk12Dec11.jpg
PGc氏は更に18Dec(λ=045°Ls)ω=360°Wではシヌス・メリディアニの二本爪が明確、マレ・アキダリウムの三角形暗部も明瞭、その西の明部もハッキリしている。
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27Dec(λ=045°Ls)ω=274°Wではシュルティス・マイヨルが中心、なお P環はハッキリしている。像は完璧に近い。29Dec(λ=050°Ls) ω=247°Wでは朝方にシュルティス・マイヨル、夕方にエリュシウムに淡い夕雲が見えている。P環は穴ぼこのようになっているが、この様子は先のAk氏の像にも出ている。
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さて、ISp氏はバルバドス島で、λ=041°Lsから045°Lsに亘って、ソリス・ラクスからシヌス・サバエウスまで五像撮った。09Dec(λ=041°Ls)ω=066°WではP環が明確、また模様としてはオピルが明るい。11Dec(λ=042°Ls)ω=049°WでもP環は出ている。ソリス・ラクスが朝方、マレ・アキダリウムが夕方である。14Dec(λ=043°Ls)ω=023°Wはマレ・アキダリウム中心、16Dec(λ=044°Ls)ω=002°Wではアルギュレが明かるい。18Dec(λ=045°Ls)ω=344°Wは前述のPGc氏の18Dec(λ=045°Ls)ω=360°Wの像と競合する。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111209/ISp09Dec11.jpg
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111218/ISp18Dec11.jpg
締め括りにWFl氏が30Dec(λ=050°Ls)ω=270°Wでシュルティス・マイヨル中心の綺麗な像を撮った。ウトピアも綺麗である。シヌス・サバエウスが朝方に細く出ている。ヘッラスは明るくない(φ=24°N)。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111230/WFl30Dec11.jpg
アメリカからは他にFMl氏から数種送られてきた。03Dec(λ=038°Ls)ω=163°W、174°Wで像は小さいながら、明るい北極冠を描き出し、12Dec(λ=042°Ls)ω=078°W、084°Wでクリュセ-クサンテに夕方の霧、アルバあたりにも出ている。この日はPGc氏、SWk氏と競合しているが、この夕霧はFMl氏だけである。19Dec(λ=045°Ls)ω=010°Wでは北極冠が明るい。クリュセは正午ころから明るい。処方の知りたいところである。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111212/FMl12Dec11.jpg
眼視ではMRs氏の03Dec(λ=038°Ls)ω=177°Wのカラースケッチがある。
オーストラリアではSBd氏が21Dec(λ=046°Ls) ω=109°Wで北極冠を含む綺麗な像を出し、多分淡い山岳雲を出しているほか、29Dec(λ=050°Ls) ω=024°Wではマレ・アキダリウム中心に過不足のない像を得ている。そろそろ視赤緯も南に下がり、南半球でも観測が可能になったようである。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111229/SBd29Dec11.jpg
ヨーロッパではJWr氏が08Dec(λ=041°Ls)ω=028°Wでマレ・アキダリウム中心の像をもたらしている。ほぼ同じ角度で、JPp氏が10Dec(λ=041°Ls)ω=034°Wでよりハッキリマレ・アキダリウム中心の像を得、翌11Dec(λ=042°Ls)ω=004°W、015°Wでもマレ・アキダリウムやシヌス・メリディアニを追っている。日本では月末にやってきた角度で比較の対象になる。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111211/JPp11Dec11.jpg
10DecにはベルギーのKSm氏がω=041°Wでカラースケッチを得ている。スケッチでは他にフランスのSMk氏が24Dec(λ=048°Ls)ω=259°W/261°W、26Dec(λ=048°Ls) ω=250°W、27Dec(λ=049°Ls)ω=238°W/248°W、29Dec
(λ=050°Ls)ω=197°W/206°Wと追っている。最初の三日はシュルティス・マイヨルとウトピアである。フィルターをいろいろ換えるが、どれも眼視の誤差範囲である。
ヨーロッパとアジアの中間に位置するイランではSGh氏が観測し、貴重な存在だが、20Dec (λ=046°Ls)ω=236°Wや21Dec(λ=046°Ls)ω=219°Wなどはゴーストが多く、語れない。28Dec(λ=050°Ls) ω=088°Wはマイルドで、アルバをはじめタルシスの山岳雲が少し見える。特にB像が好いはずなので、スケールを合わせやはりG光も撮るべきであろう。29Dec(λ=050°Ls)ω=086°Wはやはりゴーストもキツイが、夕雲は微妙に出ている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111228/SGh28Dec11.jpg
追加報告のPGcの画像は31 Oct (λ=023°Ls)ω=091°W のもので、Rでの北極冠内にリフトのようなものが見える。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111031/PGc31Oct11.jpg
ピーチ(DPc)氏のに画像セットは23 Nov (λ=034°Ls) ω=191°W, 196°Wのもので、プレグラとカロンの三叉路あたりが太く、エリュシウムは正午直後だが明るい。北極冠は耀いている。
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2011/111123/DPc23Nov11.jpg
(村上 昌己/南 政 次)
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