2011/2012 CMO/ISMO 観測レポート#04
2011年十一月の火星観測 (λ=023°Ls~037°Ls)
CMO #392 (25 December 2011)
♂・・・・・今季四回目のレポートは十一月中の観測を取り扱う。火星は朝方の「しし座」にあって、月初めにレグルスの北を通過した。この期間、視直径(δ)は5.9"から7.0"まで増加して、火星の季節(λ)は023°Lsから037°Ls迄進んだ。北極冠の縮小期にあたり、中央緯度(φ)は22°Nから24°Nと大きく北に傾き北半球の観測に好条件であった。位相角(ι)は36°から37°に達して下旬には欠けは最大となった。
♂・・・・・十一月の観測報告は以下の方々から寄せられている(苗字のABC順)。火星課では火星の自転時間に鑑みてOAAに関係のない国内外の観測者からも情報を集めている。今回は国内から4名、外国から11名であった。
ポール・エーベル (PAb)
レスター、英国
カラースケッチ 1 葉 (28 November 2010) 20cm 反射 310倍使用
阿久津 富夫 (Ak) セブ、フィリッピン
CCD画像 RGBセット 3、他8 画像 (5, 28 November 2011)
36cm SCT @f/40、DMK21AU04, DFK21AU04カメラ使用
ビル・フラナガン(WFl) テキサス、アメリカ合衆国
CCD画像 LRGBセット2 画像 (29 November 2011) 36cm SCT @f/27、 Flea3カメラ使用
サデグ・ゴミザデ (SGh) テヘラン、イラン
CCD画像 2 画像 (4, 5 November 2011) 28cm SCT、DMK21AU04.AS使用
デイビッド・グレイ (DGr) ダラム、英国
カラースケッチ2葉 (7 November 2011) 42 cm ドールカーカム、370, 540倍使用
スタニスラス・マクシモヴィッチ (SMk) エクヴィリィ、フランス
スケッチ 2葉 (1 November 2011) 31cm カセグレン 340倍使用。
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
CCD画像 1 画像(25 November 2011) 25cm SCT、ToUcam Pro II使用
南 政 次 (Mn) 福井 (福井市自然史博物館天文台)
スケッチ 26 葉 (3, 4, 8, 17, 26, 27, 29 November 2011) 20cm ED屈折、400倍使用
森田 行雄
(Mo) 廿日市、広島
CCD画像 RGBセット 5 画像、他 10 画像 (3, 7, 16, 23 November 2011)
25cm 反射 @f/80、Flea3カメラ使用
中 島 孝 (Nj) 福井 (福井市自然史博物館天文台)
スケッチ 21 葉(3, 4, 8, 26, 27, 29 November 2011) 20cm ED屈折、400倍使用
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英国
CCD画像 RGBセット 2 画像、(18 November 2011) 36cm SCT使用
ジャン=ジャック・プーポー
(JPp) エゾンヌ、フランス
CCD画像 RGBセット 1 画像 (20 November 2011) 35cm カセグレン、SKYnyx 2-0カメラ使用
マイケル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・ヴァージニア、アメリカ合衆国
カラースケッチ1葉 (12 November 2011) 35cm SCT, 390, 490倍使用
ショーン・ウォーカー (SWk) ニューハンプシャー、アメリカ合衆国
CCD画像 RGBセット 1 画像、他 1 画像 (2 November 2011)
32cm 反射、DMK21AU618.ASカメラ使用
ヨハン・ヴァレッル (JWr) シュヴァルプ、スウェーデン
CCD画像 RGBセット 2 画像(6, 15 November 2011) 22cm 反射@f/17、ToUcam Pro IIIカメラ使用
♂・・・・・11月の観測状況: 以下観測者名はコード名で記す。11月の火星の季節はλ=023°Lsからλ=037°Lsまで進捗し、視直径dは5.9"から7.1"まで増加した。懸案のエリュシウム近傍であるが、WFl氏の29Nov(λ=036°Ls) ω=215°W/219°Wの影像によればプレグラのあたりは幅が広いものの全体的に正常で、アエテリア暗斑の先年からの腰折れとその先の暗條の南下はいつものように見えている。エリュシウムはBも含めてやや明るいが、これはAk氏の5Nov(λ=026°Ls)ω= 217°W/ 220°Wでも見えている。両者共にシュルティス・マイヨルが入ってきているが、Ak氏の場合、Bで見られるように北極冠の西側が弱いのに対し、月末のWFl氏では全体が更に明るく、詳細として内部にスジが見られる。Mo氏も3Nov(λ=025°Ls) ω=
214°W、223°Wで撮像しているが、Bのエリュシウムがハッキリしない。ω=214°Wではプレグラが太く、223°Wではシュルティス・マイヨルが入ってきている。WFl氏の画像ではエリュシウムの内部がより明確であるが、まだ山岳雲と呼べるほどには育っていない。この像ではウトピアも詳細に富み、北極冠から白雲が少し跳びだしているようである。更にωの進んだ画像として、DPc氏の18Nov(λ=031°Ls)ω=242°W、247°Wの良像があり、ここではエリュシウムは更に夕方になり明らかに山岳雲が出ている。この像はウトピアの詳細も伝えている。またヘッラスが朝方縁で白い。なお、FMl氏の25Nov(λ=035°Ls)ω=246°Wの像は小さいが、やはりエリュシウムの山岳雲を捉えているほか、北極冠が燦然としている。
ヘッラスを中央で捉えた像としては、SGh氏の4Nov(λ=025°Ls)ω=287°Wがあるが、白くない。北極冠も白くないから処理の問題であろう。ただし、SGh氏の5Nov (λ=025°Ls)ω=276°Wでは北極冠は白く描写されている。分解像の提出が求められる。アルギュレはSMk氏の1Nov(λ=023°Ls) ω=041°WでWr#82Aで明るいようである。
前回報告したように、Ak氏が22Oct (λ=019°Ls)ω=356°Wでマレ・アキダリウムの東に北極冠に沿うように黄塵が出ているのを把握したが(MROで黄塵と判る)、これの残滓はDGr氏の7Nov (λ= 026°Ls)ω=331°W/335°Wを見ると未だ残っているようである。またAk氏の28Nov(λ=036°Ls) ω=352°W、003°Wでも見られるが、これは北極冠の縮小に伴う地が出てきているものかも知れない。ここでも北極冠から白雲が南に飛び出しているように見える。Ak氏の朝縁の描写は好くないが、夕方のシヌス・メリディアニはほとんど完全な描写である。
2Nov(λ=024°Ls)にはSWk氏がd=6.0"でω=085°Wの良像をもたらし、この像には40°Nに沿って黄雲が出ていると喧伝されたものである。しかし、その西端はアルバであることを村上(Mk)が西田(Ns)の経緯度図によって確かめて、黄雲説を訝しいと判断したが、ペリエ(CPl)氏もアルベドーによるものと考えている。アメリカには黄雲シンドロームがあるようである。ただし、この像は優れていて、ソリス・ラクスのあたりをよく描写している他、オピルの明るさも明白にしている。ニロケラスの双葉型も見えている。北極冠はそれ程明るくはなく、中央に翳りがあるようである。これは先に述べたDPc氏の像やWFl氏の像に見られるものと関係があろう。アルバについてはMo氏が16Nov(λ=031°Ls)ω=094°Wで捉えているが、未だ白くない。寧ろBではソリス・ラクス領域の北で白くなっている。特別な夕雲か。
日本はこの月シーイングが優れなかった。Mo氏は23Nov(λ=034°Ls)にマレ・アキダリウムをω=044°Wで捉えているが、今ひとつ鮮鋭度に欠ける。福井市自然史博物館天文台でも、Nj氏とMnはたいへん苦労しており、天候不良のため、観測が妨げられている。近内令一氏によって火星の高度が上がった時のためにペンタプリズムの使用を奨められて試行錯誤しているが、活用する機会がなかなか訪れない。しかし、3Nov(λ=025°Ls)以降、北極冠の明るさだけはダークフリンジと共に確実に捉えている。時には北極冠が燦然として飛び出しているようにさえ、見える。29Nov (λ=037°Ls)には悪条件ながら、Nj氏がヘッラスの南部の明るさを認めている。
なお、他にJWr氏が小さい像ながら、6 Nov(λ=026°Ls)ω=326°Wおよび、15Nov
(λ=030°Ls)に撮像している。後者ではシュルティス・マイヨルが出ているほか、北極冠が充分明るい。スケッチではMRs氏が12Nov(λ=029°Ls)ω=022°Wの像があるが、欠け(defect of illumination)の取り方が悪いように思う。PAb氏のスケッチは28Nov(λ=036°Ls)ω=112°Wで、夕方の雲は解るが、その西の白斑は何か判らない。
(村上 昌己/南 政 次)
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