巻頭解説

 

2011/2012年の火星(そのI)

村上 昌己、中 島  孝、西田 昭徳

 

CMO/ISMO #384 (25 April 2011)

 

この項は『天界』20114月号に載った「火星課だより」を若干添削したものです。


English


星の「合」は24GMTに過ぎ去って、東の空に戻ってきていますが、近日点後の接近は、最接近までの期間が非常に長いのが特徴です(Fig.1参照)。今回の最接近は2012年の3517GMTに起こりますから(「衝」は3320GMT)2011年は延々と火星の近付くのを待ちに待つことになります。しかも、今回はいわゆる小接近ですから、なかなか綺麗な火星像には出会わないということになります。視直径δ6"になるのが11月4日です。年末の1231日になってやっとδ=9"(中央緯度φ=24°N、位相角ι=34°、「しし座」に見える)になりますが、δ=10"以下では眼視観測は楽でありません。尤も来年の最接近の最大視直径はδ=13.9"ですから贅沢は言っていられません。それでも北極冠は年末頃にはかなりハッキリしていますから、その大きさを見積もることは出来るはずです。眼視観測でも模様はδ=7"ではかなり見えるようになりますから、通常の観測者は121日頃からの待機で充分でしょう。

 ただし、CCD像ではδ=4.5"らいから良像の得られるときがありますから、有効な撮像は8月中旬から可能となるでしょう。北半球の春分になるのは913日のことで、夜半過ぎの「ふたご座」で、中央緯度φ=13°N、位相角 ι=31°の姿を見せていますが、視直径は まだδ=4.9"にすぎません。ただし、この頃には赤緯の高いこともあって高度の上がるのも早く、朝方にかけて安定したCCD撮像の可能な機会があるかも知れません。

  いずれにしても、接近は冬季に向かいますから、準備しても天候が悪化したりして、上手く行かないことが多く起こるでしょうから、かなりの覚悟と忍耐が必要です。

  今回と似たような小接近は1995年、1997年、2010年に見られましたが、Fig.2で示すとおり、それぞれLsが少しずつ違っていることに注意しましょう。つまり、この違いのために少しずつ違った季節を観察できることになるのです。われわれはLsを重視し、λという記号で示し、例えば北半球の春分はλ=000°Ls、夏至はλ=090°Lsで示します。重視するというのは、細かなLsの値を問題にするということではありません。λ=090.1°Lsとかλ=090.3°Lsがどうのということではありません。λ=090°Lsλ=091°Lsも大して違いのないことです。ただ、おおよそでありながら、λには注意しておくことが大切という意味です。

 今回のλの動きは、121日のδ=7"以上の頃を狙うとすると、2012619日頃まで観測できることになります。季節はλ=037°Lsからλ=127°Lsあたりまで推移しますから、北半球の夏至を含むLsで季節巾90度ぐらいを観測できることになります。逆にいうと夏至を含むこの季節を観測するのはそう機会のあることではなく、貴重な機会であることがお分かりでしょう(Fig. 2を見て、2009/2010年の機会と比べると同じ季節巾でもλの違いによって大いに異なることが明白でしょう)

 

 

 今接近の観測目標として挙げられるのは、前回2009/10年の接近と同様に、縮小していく北極冠の振る舞いと北極冠の縮小していく時期に北半球に起きる現象の追跡ということになります。北極雲から北極冠が出現するのはλ=010°Ls~020°Lsの頃で、先述のとおり、今期はまだ視直径が小さく詳しい時期の確定は難しいと思われます。しかし、λ=040°Ls頃になると、CMO#373Note 1で分析したように北極冠内に黄塵が立つことがありますから注意しましょう。2010年の場合はλ=046°Ls頃見事な黄塵が内部で明確でした。

 他方季節がλ=040°Ls頃になると北極冠の縮小に伴いタルシス三山やオリュムプス・モンスが夕方山岳雲に覆われることが見られます。今年の年末のδ=9"のときはλ=051°Lsですから、もちろんこの範囲に入ります。オリュムプス・モンスの山岳雲はλ=100°Lsぐらいで最も強く見られますが、綿毛のように浮かんで見えるでしょう。2009/2010年の接近のときはλ=100°Lsのときは既にδが小さくなっていて見る機会がほとんどありませんでした。その点今回は有利です。タルシス三山も似たような動きを見せるのですが、全く同じではなく、少しずつ違いがあり、アルシア・モンスはかなり独特です(ピークはλ=150°Ls頃になるでしょうから上の範囲を外れます。これは緯度の違いと両極冠の影響の違いによると考えられます)。アルバ・モンスもλ=050°Lsころから注目を集めます。1995年のアルバの観測は

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note13j.htm

をご覧下さい。

 もう一つ重要なのは、ヘッラスの動きでしょう。ヘッラスの南部がλ=100°Lsのころ真っ白になることは過去の観測から明らかですが、最近ではこれは南極冠の一部であるという見方も出てきています。すると、南北両極冠は同時に見えないというこれまでの通説を改めた方がよさそうです。実際、他方の北極冠はこの時期明白で、観測の対象としては第一のものです。

 

 北極冠に関しては、前述のようにすでに縮小を続けています。北極冠の振る舞いに関しては、われわれがボームのプラトーと称していることですが、縮小が一時停滞してλ=055°Lsを過ぎてから再び進むという考え方と、一次直線的に縮小するという考え方があるのですが(ボームの場合は前者)、これは北極冠域に存在する大気塊の停滞と移動に関したことで、先行する黄雲とも関係があると言われています。いずれにしてもこれはいつも見極めなければならない問題で、逆にいうと、今回の接近はその確認に最適の久し振りの接近ということになります。

 2011年秋の観測開始時期には、あらためて別の情報を草する予定です。観測が始まれば火星の画像も多く集まってきます。寄せられた画像は、ギャラリーへ保存して、参照に役立つインデックスが用意されて閲覧に供します。ぜひご利用下さい。

 


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